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気付いてよ 6
蓮が強引にでも手に入れたがるほど好きだった相手とは一体どんな人なんだろう?
会った事もない相手を想像してモヤモヤするなんて馬鹿げてる。
そう頭ではわかってはいるけれど、どうしても気になってしまう。
チラリと隣の席を見ると、いつの間にやら起き上がっていた雪之丞と目が合った。
「気になる?」
「そりゃ、まぁ……」
曖昧に言葉を濁すが、内心はめちゃくちゃ気になっている。
もしも、未だにその人のことを好きだとしたら……?
無理矢理にでも手に入れたかった相手だ。考えたくは無いが可能性は0じゃ無い。
いっそ直接本人に聞いてみようか?
いや、でももし、触れてほしくない話題だったり、まだ未練が残ってたりしたら?
ぐるぐるとそんな考えが頭の中を駆け巡るが、どうにも結論が出ず、ナギは大きな溜息を吐き出した。
その時、突然カランコロンっと来客を告げるドアベルの軽快な音が静かな室内に鳴り響いた。
なんとなく視線を向けると30代と思われる少しチ
ャラそうな男性が店内に入って来るのが見える。
「あら、東雲くんじゃない。久しぶりね。今日は誰かと待ち合わせ?」
常連さんだろうか? 親しげにナオミが声を掛けると、男性は少し困ったように頬をかいた」
「いやぁ、店の前で珍しい人が立ってたから声掛けただけなんです」
「珍しい人?」
「そうそう、ほら、前に僕に紹介してくれた人ですよ。御堂さんって言う……」
その言葉を聞いて、ナギは思わず身を乗り出した。まさか、蓮?
でもどうしてここに?
慌てて入口の方へと視線を向けると、そこには何処か気まずそうに視線を彷徨わせている蓮の姿があった。
「あら、ちょうど蓮君の話をしてた所だったのよ。さ、入って」
「い、いや……僕は、たまたま通りかかっただけで……」
「何言ってるんです? さっきからソワソワしながら店の前彷徨いてたじゃ無いですか」
東雲と呼ばれた男の言葉に、蓮が一瞬鋭い視線を向け、チッと小さく舌打ちをしたのをナギは見逃さなかった。
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