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気付いてよ 8
「……そっか。蓮君ってば相変わらずモテるのねぇ。性格は最悪だけど顔だけはいいから」
「おい、聞こえてるんだけど?」
二人の会話が耳に届いていたのか、蓮が不機嫌そうな表情で口を挟んだ。雪之丞はバツが悪そうに俯き、ナオミはニヤリと口角を上げると空いたグラスを下げて、蓮と東雲それぞれにメニュー表を差し出してくる。
「だって、事実でしょう?」
「……五月蠅いな。性格悪くて悪かったね」
ふいっと視線を逸らして拗ねたように口を尖らせる彼の姿を見るのは初めてで、ナギは小さく息を呑んだ。
「ナオミさんにかかれば、御堂さんもなんだか子供みたいに見えちゃいますね」
苦笑しながら東雲に言われ、蓮はさらにムッとした様子で押し黙った。こんな一面もあるのかと思うと同時に、もっと色んな表情を引き出してみたいという欲求が生まれてくる。
「ガキ扱いされるのは心外だな。……ケンジ。スクリュードライバー一つ頼むよ」
「もー、本名で呼ばないでって言ってるのに……。東雲君は? 何か飲むでしょう?」
「あー、じゃぁ……姐さんのおススメで」
「またアバウトな注文ね。ちょっと待っててちょうだい」
呆れたような溜息を漏らしつつ、ナオミはカウンターの中へと入っていく。その様子をぼんやりと眺めながら、ナギは東雲と呼ばれた男と蓮をそっと見比べた。
顔見知りっぽいが、一体どういう関係なのだろうか?
先輩後輩と言うには少し年齢が離れている気がするし、芸能関係者でないことはナギにだってわかる。
「……俺が何者か知りたいって顔してるね」
「えっ、いや……あの……」
不意にかけられた言葉にギクリとする。確かに気になるけど……。でも……。ナギは視線を泳がせながらもごもごと言葉を濁した。
「君みたいな可愛い子に見つめられるのは嬉しいけど……。ちょっと複雑だなぁ」
「えっ?」
苦笑しながら手を握られ、思わず間の抜けた声が洩れた。予想どうりの反応だったのだろう。彼は可笑しそうにクスリと笑って見せる。
「安心しなよ。彼と俺はそう言う関係じゃないから。ただのクライアントさん。と言うか俺、タチなんだよね」
「へぇ、そうなんだ……って、クライアント?」
「っ、東雲君。余計な事吹き込むのは止めてくれないかな? そして、何時まで手を握っているんだ」
一体何の事だろう?と思ったら、いきなり手を強く引かれて、間に割り込んできた。
「えー? 俺は聞かれた事に答えただけじゃないですか。てかなに? その子が今の新しいセフレの子?」
「……ち、ちがっ……この子は僕の……っ」
そこまで言って蓮はハッとしたように言葉を止めた。なんではっきり言ってくれないんだ!? と不満を覚えたが、もしかしたら恋人だと公言することに抵抗があるのかもしれないと気付く。
それに、直ぐ側にいる雪之丞に配慮したのかもしれない。 自分の事が好きだと言ってくれている相手の目の前で、他の人間とそういう仲だなんて実際に聞かされるのは雪之丞にとって地獄以外の何物でもないだろう。
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