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お願い 4

「確かに僕は、人よりもずっと鈍いんだと思う。今までずっと、欲しいと思ったものは全て手に入ったし、中学入った位からずっと、誰かと付き合ったりしなくてもヤる相手は沢山居たから。だから、多分……恋愛っていうのがどういう事か未だによくわかっていないんだと思う」 蓮はそう言って自嘲気味に笑うと、真っ直ぐに雪之丞を見つめた。 月明かりの無い暗い夜道では表情までは良く見えないし、言っている事は、はっきり言えば最低だが真剣な眼差しをしているのだけはなんとなく伝わって来る。 「――でも、好きだったやつにフラれる辛さはわかってるつもりなんだ」 「なに、言って……?」 雪之丞は困惑した。なぜ今、そんな話をしだしたのか蓮の意図が読み取れなくて、眉を寄せて怪しむような目を向ける。 思わず顔を上げた雪之丞の瞳に映ったのは、苦しげに顔を歪める蓮の姿だった。 「高校の時に初めて好きになった子が居たんだけど、その時はその得体のしれない感情が怖くて僕は一度逃げたんだ。……でも、やっぱり好きで、高校卒業してからもずっとアイツの事が忘れられなくて…。大人になって、随分経ってから偶然再会した彼を見た時、どうしても彼を手に入れたいと思ってしまった。その時、彼には既に恋人がいたんだけど、それでも諦めきれなくって……それであの手、この手を尽くして手に入れようとしてたんだけど、結果的に僕はソイツを傷付けただけだった」 何処か寂しげに笑う蓮の表情はいつになく真剣で、嘘を言っているようにはとても見えない。 「結局疎遠になってしまってね、色々と後悔しているんだ。まぁ、とても酷い事をしたし、会わせる顔が無いだけなんだけど。だから、かな……。今の状態の雪之丞を放ってはおけなくて」 そう言って蓮は切なげに眉を寄せると、雪之丞の頬にそっと優しく触れてきた。 もしかしたら、蓮は未だに過去を引きずって居るのかもしれない。 そんな思いが頭をよぎったが敢えて口には出さず、そっと蓮の指先から距離を取る。 「……大丈夫、だよ。ボクは、蓮君とは違うから」 「え?」 「蓮君にそんな過去があったなんて知らなかった。話してくれて嬉しいけど、でも……、後悔してるって言うなら、尚更こんな事しちゃダメだ」 雪之丞はそう言うと、自分の胸をギュッと押さえて、無理矢理笑顔を作った。これ以上触れられたらきっとこの想いが溢れてしまう。 「あのね、ボクは蓮君もナギ君もどっちも大事で、どっちも大好きなんだ。だから、二人が悲しむ姿は出来れば見たくない。……わかるよね?」 諭すように言って聞かせたが、蓮は黙ったまま何も言わない。 ただじっと何かを考えるように雪之丞の顔を見てくる。 「ボクは逃げないよ。今はまだ頭が混乱してるし、胸は痛いし感情が上手くコントロールできないけど……。でも、誰かを傷付けてまで自分の思いを貫きたいとは思えないんだ」 それは、本心だった。少なくとも今は二人を裏切る様な真似は出来ないと思っている。

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