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お願い 7

車の中は暖房がきいているのかとても暖かくて、冷えきっていた雪之丞の身体をじんわりと温めてくれる。 「気休め程度にしかなりませんが被ってて下さい」 ふわりと頭から温かいブランケットを被せられて、思わず雪之丞は顔を上げた。隣に乗り込んで来た弓弦は自然な動きでぬいぐるみを膝に置き、視線に気付くとハッと我に返った様子で慌ててそれを後ろの荷物置きに放り投げた。 もしかして、ぬいぐるみが好きなのだろうか? それともこのキャラクター?  どちらにせよ、イケメン俳優のなんだか可愛らしい一面が見れた気がして、なんだかほっこりする。 「……勘違いしないでくださいね。ここにあるものは全てファンの子が持ってきたものであって、けっして私の趣味じゃ無いですから」 「え、あ……そう、なんだ……」 まだ何も言っていないのに、わざわざ申告しなくても。ふいっと視線を逸らし、窓の外を眺める弓弦の言葉を聞いて、運転席にいるマネージャーさんがくすっと小さく笑うのが見えた。 「でも、可愛いよね。特にこの黒っぽいウサギ。垂れてる耳が凄くいいと思う」 静かな車内でずっと黙っているのもなんとなく気まずくて、取り敢えず目に付いたぬいぐるみを指さすと、弓弦がハッとしたように顔を上げた。 「もしかして、アニマルフレンズ知ってるんですか?」 身を乗り出すようにして聞いてくる弓弦の顔はどこか嬉しそうで、見た目のクールなイメージとは随分かけ離れている。 普段の彼は何処か一線を引いていて、あまり感情を表に出したりしないのに、こういう時は随分と幼く見えるから不思議だ。 「うん、友達が好きでよく見せてくれてたから」 「そうだったんですね。じゃぁ、あげます」 「えっ、いやいいよ。だってこれはキミが貰ったものなんだろう?」 「大丈夫です。沢山ありますから」 「でも……」 そう言われても、やはり簡単に貰っていいものではないし、ましてや彼程有名な芸能人が持っているものを譲ってもらうなんて……。 「私がいいと言ってるんです。それに……ろっぷちゃんがいれば少しは気が紛れるかもしれないでしょう?」 「――え?」 「すみません。さっき、貴方が暗闇で泣いているところを見てしまって。……あのままほおって置いたらどこかに消えてしまいそうな気がしたんです――」 「……」 そう言えばさっき、蓮にも似たようなことを言われた。自分はそんな風に見えていたんだろうか?……確かに今は酷く心が不安定になっているけれど……。 何も言わずに黙り込んでいると、弓弦が黒ウサギを雪之丞の膝に押し付けて来た。 「……受け取ってください。きっと何かの役に立ってくれると思うので」 「……わかった。大事にするよ」 流石に此処まで言われてしまっては、無下に断るわけにもいかなくて雪之丞は苦笑しつつそれを受け取ることにした。 貰ったぬいぐるみを抱きながらふと窓の外に視線を移せばいつの間にか雨は止み、雲間から綺麗な星たちと月明かりが見え隠れしていた。

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