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遊びじゃないよ 4
「……ナオミさんと喧嘩でもした?」
帰りのタクシーの中、重苦しい沈黙を破ったのはナギの方からで、心配そうに顔を覗き込んできた。
「いや、別にそういうわけじゃないよ」
「そう? なんか、いつもと雰囲気が違う気がしたから……」
不安げに揺れる瞳が蓮を捉えて離さない。その瞳に見つめられ、蓮は思わず苦笑を零した。
「……ねぇ、ナギ」
「ん?」
「君はさ、僕と一緒に居て楽しい?」
「え?」
唐突な質問にナギは困惑気味に首を傾げた。何故そんな事を聞くのだろうと言うような顔をして、答えを探すように暫し思考を巡らせる。そして、暫くすると何かを思いついたように小さく口を開いた。
「……お兄さんは? 楽しくないの?」
質問に質問で返されて、今度は蓮の方が戸惑ってしまう。
「それは、その……楽しいよ。凄く」
「じゃぁ、それでいいじゃん。付き合い始めたばっかなのにそう言う事聞かれても困るよ」
拗ねたように唇を尖らせて、ナギは蓮から視線を逸らすと窓の外を眺めた。
そうか、困るのか。と、どこか他人事のように呟いて、蓮はナギの横顔をぼんやりと眺める。
「ゆきりんとは、ちゃんと話出来たの?」
窓の外を眺めながら投げかけられた質問に、蓮は一瞬言葉に詰まった。
「一応ね。上手く伝わったかどうかはわからないけど」
「そっか……よかった……っ」
そう言うとナギは振り向きざまにいきなり抱きついて来た。その衝撃で危うくバランスを崩しそうになった蓮だったが、何とか持ち堪えてその身体を受け止めてやる。
ナギの温もりと、シャンプーの香りがフワリと鼻腔をくすぐり、何とも言えない愛おしさが込み上げてきて、躊躇いがちに腕の中に閉じ込めた。
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