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接触 5

「それってつまり、今回の失踪事件は塩田による僕への復讐の為の犯行だって言う事?」 蓮がそう聞き返すと、東雲は小さく首肯して見せた。 そんな馬鹿な事があるだろうか? 自分に恨みを持つ人間が、CGクリエーターを拉致する?  そんな事、現実に起こり得るのか?  そう思ったが、目の前の東雲は至って真剣な眼差しでこちらの様子を伺っている。 嘘を言っているとは思えない。 「どうやって番組を中止に追い込もうかと考えていた塩田はある日、偶然猿渡監督にセクハラを受けている初心そうな奈々さんに出会うんです。 これはあくまでも俺の想像の域を超えませんが……。塩田はセクハラに悩み、もう辞めたいとボヤく彼女にそっと近づき、唆したのだと思います」 「……」 そう言えば、以前飲み会の時、美月が「監督が地味で巨乳な冴えない女性を口説いていた」と言っていたような気がする。 失踪直前に奈々さんに彼氏が出来たらしいという同僚の証言ともほぼ一致する。 「……それで? 彼女とその塩田ってヤツの行方は?」 「それがですねぇ、まだそこは調査中なんです。俺は警察じゃないんで色々と限界があるんですよ。近々大吾に相談しようと思ってた所なんです」 東雲はそう言うと、大きなため息を吐き出した。 大吾と呼ばれる彼は警察官。そんな彼に話をして動いてくれるとは到底思えないのだが。 「あぁ、大丈夫ですよ。大吾はああ見えて口が堅いので。今回の失踪事件ご家族からも捜索願が出ていないので行方不明者として警察が捜査を始めることは無さそうです。大吾には個人的なお願いと言う形で頼もうかなって思ってて」 「それって、あまり良くないんじゃ……」 「言ったでしょう? 俺とアイツはビジネスパートナーなんです。アイツも捜査に行き詰った時はこっそり俺にアドバイスや調査を依頼してくる。俺は警察でしかわからないことはこっそり大吾にお願いする。それで、解決出来た事例って結構あったりするんで、お互いにWIN-WINな関係なんです」 「な、なるほど?」 よくわからないが、二人がお互いを信頼し合っているという事だけは理解出来た。 それにしても、回りくどい事をする。自分に恨みがあるのなら、そんなまどろっこしい事をしないで直接言いにくればいいのに。 塩田の自分勝手な行ないのせいで、雪之丞はしなくてもいいCG制作を引き受けることになってしまったし、動画撮影だって本来は必要なかったはずなのに。 それだけでも腹立たしいのに、その上こんな回りくどい事をされるのでは、気分が悪い。 苛立ちを抑えながら、蓮はコーヒーカップに視線を落とした。

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