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接触 8

東雲との話し合いを終えて帰宅すると、既に時刻は22時を回っていた。 誰も居ない玄関を開け、薄暗い部屋に明かりを灯しながらリビングへと向かう。 住み慣れている自分の部屋のはずなのに、たった数日居なかっただけで妙に 懐かしく感じてしまう。 電気も付けずにソファに腰を下ろすと、蓮は天井を見上げて大きく息を吐いた。 まさか今回の失踪事件に、自分を怪我させた相手が絡んでいるなんて思いもしなかった。 自分を恨んでいるのなら、自分に仕掛けてくればいいものを。そしたら返り討ちにしてやるのに。 正直顔も覚えていない相手だが、スタッフやキャスト迄巻き込んで、色々な人に迷惑を掛けてまで目的を追行しようとする相手に強い嫌悪感を覚える。 もしかしたら、兄は塩田が関係していると気付いていたのかもしれない。 以前何か言いかけて辞めたのはこのことだったのでは? ふとそんな考えが頭を過る。無口な兄の事だ、確証はないがなんとなくそう思えた。 なんにせよ、一度兄とはきちんと話をする必要があるだろう。失踪事件のカギを握っている男が塩田だとするのなら、ヤツの目的は自分の降板か、獅子レンジャー自体の消滅。 このまま撮影を続けていれば、きっと再び何かアクションを起こしてくるはずだ。 折角ナギが主演の座を手に入れたと言うのに、こんな事で台無しにされてたまるか。あの子の初主演作品だ。なんとしても成功させて、これを足掛かりに俳優としての道を歩んで行って貰いたい。 そう思ってから、蓮はフッと自嘲気味に笑って首を横に振った。

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