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接触 15
「説教って言うのはちょっと語弊があるかもしれないけど、ゆづはゆづなりに心配してるのよ」
「心配、ねぇ。『また徹夜してんですか? あまり根詰めると体調を崩しますよと何回言ったらわかるんですか!? ちょっと! 笑って誤魔化さないで下さいっ!』って、この間めっちゃ怒ってたけどな」
「……それは、確かにお小言だね」
東海の物真似がとてもよく似ていたので、どんな雰囲気なのかが想像できてしまい思わず苦笑してしまう。
「まぁ、ゆづは誰に対してもそんな感じなんだけど」
「棗さんは、自分の事に無頓着過ぎるんだよ。何でそんなに追い詰めてるのかわからないけどさ。少し前に聞いた時は、何もしてないと辛い事思い出しちゃうからって言ってたけど……」
「……」
彼のあの時の表情を思い出すと、胸の奥にモヤっとしたものが広がる。
雪之丞の目の下にクマが出来ていた事には気付いてはいたが、まさかそんな無
茶をしていただなんて。
(やっぱり、僕のせい……だよな……)
自分の伝え方が拙かったのだろうか? もっと上手くフォロー出来る方法は無かった?
あの時は、アレが最善だと思っていたけれど本当はもっといい方法があったんじゃないだろうか?
「ま、ゆきりんの事はゆづが何とかしてくれると思う。 何のことかわからないけど、ゆきりんには時間が必要だとかなんとかゆづが言ってたし」
「そっか。時間か……」
失恋の痛みを忘れるには、新しい恋が一番だと良く聞くが、それが一番難しい。忘れようと思っても、ふとした瞬間に蘇り、その度に心を締め付ける。
それは……。その感情だけは、よく覚えている。
「ふぁあ……。おはよー。って、何やってんの?みんなしてこんなとこに集まって……?」
呑気な声がして、振り返る。あくびをしながら現れたのは、ずっと待っていた人物で。
蓮は、思わず駆け寄り抱きしめたくなる衝動を抑え、いつも通りに声をかけた。
「おはよう、ナギ。寝ぐせ付いてるよ」
「えー? うそっ、どこ?」
「ほっぺ。右の方」
「……いやいや、そんなとこに寝ぐせなんて付くわけないじゃん!」
蓮の指摘に、ナギが何言ってるんだよと言わんばかりに苦笑する。その表情を見ていると、裏で起きている色々な事すらどうでもよく思えて、そっと手を伸ばし右の頬に掛かる髪を耳に掛ける。
「ホントだって。僕が嘘吐いたことあるかい?」
柔らかい髪を撫でながら微笑むと、ナギは一瞬目を丸くしたがすぐにへにゃりと顔を崩した。
「……やだ、なんだか見ちゃいけないもの見た気がする」
「オ、オレっ先に着替えてこよーっと」
「…………」
いつの間にか戻って来ていた結弦を含む三人は、まるで示し合わせたかのようにその場を離れて行く。
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