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交錯する思い
咄嗟の事で避けられないと悟ったのか。ナギがぎゅっと目を瞑った。
ほんの冗談のつもりだったのだが、キスを待っているみたいな表情に思わず顔がにやけてしまう。
(……かわいい)
いつ気付くかとその様子を観察していると、流石におかしいと思ったのかナギがうっすらと目を開けた。
どうやら揶揄われたらしいとようやく気付いたナギが、眉間にシワを寄せる。
恥かしいやら腹立たしいやら、色々な感情が渦巻いているような表情でキッと睨まれて笑いが込み上げてくる。
「もう! 馬鹿な事してないでさっさと――っ!」
蓮を押し退け、立ち去ろうとしたナギの動きがぴたりと止まる。何事かと思ったら、物陰から雪之丞を加えた4人のつぶらな瞳がジッとこちらを見つめていた。
「……」
「……」
「「「「……」」」」
無言で見つめられ、居心地が悪くなったナギがチラリと蓮を見る。
「……お兄さん」
「……うん」
「……今の、なかったことにしない?」
「いや、無理だろ」
思わずツッコミを入れてしまい、ナギが絶望的な顔になる。
「はぁ、なにしてんだよオッサン。熱すぎて引くわ」
「ほんっと、見せつけてくれるわよねぇ。やんなっちゃう」
わざとらしくパタパタと手で仰ぎながら呆れた声を上げる東海と美月とは対照的に、ブルーコンビの表情は硬い。
「……ボ、ボク先に行くね」
何と表現したらいいかわからないと言った複雑な顔をして、雪之丞は逃げるように去って行き、慌ててその後を結弦が追っていく。
去り際に結弦から舌打ちされたような気がしたのは、多分気のせいじゃないだろう。
「――そんなところで何をしている?」
微妙な空気を裂いたのは、低く威圧感のある声だった。振り向くと、兄である凛が訝し気な顔をして一同を見つめていた。
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