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束の間

(なんで……こんなことに……) 山の中での撮影を終え、ようやくナギと二人きりになれるとウキウキしたのも束の間、手渡された部屋割りを見てみると、そこは兄である凛と同じ部屋だった。 「……」 「なんだ? 俺とじゃ不服なのか?」 「別に。そう言うわけじゃないけど……」 不満げな顔の蓮を他所に、兄である凛は何食わぬ顔で荷物を持って行ってしまう。仕方なくその後を追いかけるように重い足を引きずりながら彼の後に続く。 当然同じ部屋になれるとばかり思っていたのに、まさかの別室。 しかも、隣同士ではなく向かい合わせの部屋で、廊下を挟んだ反対側に雪之丞とナギが泊まるらしい。 撮影が終わるまでの1週間、毎日この狭い空間で兄と二人で過ごさなければならないと思うと少し気が重くなる。 そう言えば、明朝は寝顔ドッキリを決行するとか言ってなかっただろうか?  もしやこれは、自分も巻き添えを食うパターンなのでは? いやいや、それか内側から鍵を開けろという事か。 どちらにせよ、自分にとってはあまり喜ばしい状況ではない。 兄にはバレないようにしないと……。ナギの動画撮影を邪魔してしまった経験もあるし、失敗したらまた何かしら文句を言われるのは間違いないだろう。 「……はぁ」 「なんだ。そんなに俺と同室が不服なのか?」 「違うって。ただ、ちょっと疲れたなって」 「年寄臭い事を言うんだな」 フッと凛が鼻で笑う。 「そりゃ、もういい歳だし」 「性欲だけは中高校生レベルで止まっていそうだけどな」 「うぐ……っ」 「図星だろ?」 「うるさいな。ほっといてよ」 揶揄われて恥ずかしくなった蓮が顔を背けると、凛は可笑しそうにクツクツと喉を鳴らした。

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