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束の間 2
「お前は昔から分かりやすい奴だよな」
「そう? そんな事言うのは兄さん位だよ」
確かに、子供の頃は嘘をつくのが下手だったと自分でも思う。だが、それも中学生位までで、流石に今はそこまで露骨な態度は取っていないはずだ。
「兄さんは昔っから何を考えてるのかさっぱり読めないけどね」
何事にも動じないし、感情を表に出さない。
いつも涼しい顔で淡々と物事をこなしていく。
まるで機械のように正確で、冷徹で無慈悲。
彼に恋人が居たという話は聞かないし、誰かを連れ込んでいたという噂も聞いたことが無かった。
我が兄ながら謎が多すぎる。流石にあの顔で、この歳にもなって童貞と言うわけではないだろうが、それにしても女っ気が全く無いのは何故なのだろうか。
たまに冗談なのか本気なのかよくわからない可笑しなことを言う時があるが、冗談にしては悪趣味だし何を考えているのかよくわからない。
勿論、仕事柄あまり目立つような行動は出来ないのはわかる。だからと言って、あまりにも私生活が見えなさ過ぎる。
今日は機嫌が良さそうだし、思い切って聞いてみようか?
「兄さんってさどんな子がタイプ?」
思い立ったが吉日とばかりに尋ねてみれば、凛が飲みかけのコーヒーをテーブルに置き、ベッドに腰掛けた蓮に視線を寄越した。
「唐突になんだ?」
「いや、ちょっと気になっただけだけど。深い意味は無いんだ」
訝しげに眉を寄せる兄に、もしかしたらこの手の話題はタブーだったか? と一瞬焦る。
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