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束の間 11
ナギは深呼吸を一つしてから、長い睫毛を伏せ気味にしてゆっくりと顔を上げ、上目遣いに見つめながら、震える声で小さく呟いた。
「……蓮……」
「っ」
その破壊力たるや凄まじく、危うく理性を持っていかれるところだったがなんとか堪える事に成功した。名前を呼ばれただけでこんなにも嬉しくて幸せな気持ちになれるなんて、今まで知らなかった。
だが、
「ナギ……」
「ご、ごごごごめっ、お兄さん! 俺、もう行くね! 準備しないとっ! あ、カメラの回収たのんだよ!!」
「え……」
感極まって抱きしめようと伸ばした手は空振りに終わり、脱兎の如く走り去ってしまったナギに呆然とする。
いま、またお兄さんと言わなかっただろうか? 折角、嬉しかったのに……。
何なんだったんだ、一体。でもまぁ、あれはあれで可愛かったからいい、のか。
思わず脱力してしまったが、先ほどのやり取りを思い出すとだんだん可笑しさが込み上げてきて、吹き出してしまう。
恥かしいのか何なのかわからないが、どうしても名前で呼ぶことが出来ないなんて、本当に可愛い奴だ。
次はいつ言わせてやろうかな。なんて考えつつ、蓮は一人、部屋へと戻った。
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