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束の間 12

朝出ていた靄も、日が昇り切るころにはすっかり晴れて綺麗に澄み渡った青空が、眼下に広がっていた。今日は雲ひとつなく絶好の撮影日よりだろう。 「えーっ、ドッキリ失敗したってどういう事?」 「ごめんね。バッテリー切れてたみたいで……」 申し訳なさそうな顔で謝るナギに、美月は不機嫌そうに唇を尖らせた。 こういう時、役者は凄いと思う。何食わぬ顔で、何もなかったかのように振舞うナギに、内心舌を巻いた。 ナギの演技に騙されたのか、それとも最初から演技だと気づいていたのかは定かではないが、美月は少し残念そうな表情をした後、チラリとこちらに視線を投げて寄越すと何かを思いついたのかにやりと笑う。 なんだろう? 何か嫌な予感がする。 ナギに何事かを囁く彼女は絶対何か良からぬことを企んでいるに違いない。 「えーっ、無理じゃない?」 「そんなことないわよ。大丈夫だって」 「……何の話をしているんだい?」 二人の会話に割り込むように蓮が声をかけると、二人はギョッとしたように振り返った。 「べ、別になんでもないよ!?」 明らかに動揺した様子のナギの態度が怪しすぎる。 「何でもないことないだろう?……僕に隠し事するの?」 わざと悲しそうに言ってナギの顔を覗き込めば、「うっ……」と声を詰まらせてオロオロと視線を彷徨わせる。 もしかしたら自分の演技力も意外と捨てたものでもないのかもしれない。なんて思いながらジッとナギの瞳を見つめていると根負けしてくれたようで渋々口を開いた。 「……あの……その……前言ってた結弦君との女装対決、やりたいなぁって……」 「え? 嫌だけど」 ニコッと笑顔を向けながら即答すれば、ナギが「だよねぇ」とがっくりと肩を落とした。

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