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因縁の相手 8

悪びれた様子もないところから察するに、塩田は自分がしたことの重大さがわかっていないのだろう。 彼女が逃げ出したくなるほどの精神状態に追い詰めたのは監督だろうが、きっかけが何であれ、それを唆したのは紛れもなくこの男だ。 曲がりなりにも元同業者なら、技術スタッフが行方をくらます事で生じる影響は知っているはずなのに。 いや、もしかしたら知っていた上での行動かもしれない。 この男は、仕事を失って恨みを持っていたと言うし、彼女の失踪に加担する事で己の鬱憤を晴らすつもりもあったのではないだろうか? そして、あわよくばその罪を彼女に擦り付けようとしたとか? ――いや、考えすぎか。 が、その可能性は十分考えられる。 「……奈々さんの件が事実だと仮定して、その彼女はいま何処にいるんだ? 一緒じゃないのか?」 凛の問いかけに、彼は再び「それは……」と言葉を濁した。 ――やはり何か隠しているな……。 情報を素直に話しているように見えて、肝心なことは一切ぼかしてのらりくらりとかわしているような、そんな印象を受ける。 「彼女一人に責任を押し付けるつもりはないよ。もちろん、逃げ出すっていうのは重要なコンプラ違反だから、何もお咎めなしとまでは行かないだろうけど。そこに監督からのパワハラやセクハラが関係してるんだったらある程度は考慮されると思うし、最悪でも解雇は免れるんじゃないかな。彼女が居なくなって、僕の大事な友人が代わりに頑張ってくれているんだけど、やっぱり大変そうなんだ。だから、できれば戻ってきてほしいんだけど……」 蓮は塩田にそう声をかけたが、彼は俯いたまま黙り込んでしまった。そして、しばらく考えるような素振りを見せたあと、ゆっくりと顔を上げた。

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