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因縁の相手 9
「わかった。一応伝えてみる。だけど、戻るかどうかまでは保証しないからな!」
何故か偉そうな物言いに蓮はムッとする。
何でコイツはこんな上から目線なんだ? まるで被害者は自分達だと言いたげな態度だ。
それに、コイツの表情は兄に凄まれて怯えていた時の人間と同じとは思えないほど謎の自信に満ち溢れている。
恐らく、自分は下に見られているのだろう。それがまた腹立たしい。
「……クソ、偉そうに……」
思わず洩れた低い声自分でもびっくりするほど冷たく、刺々しい口調になってしまった。コイツの目的をはっきりとさせるまではキレるわけにはいかないと、何度か深呼吸をしてなんとか気持ちを抑え込む。
「ところで、もう一つきいてもいいかい? 君の話し方から察するに、彼女とは恋仲のようにもきこえるんだ。それなのに、僕に声をかけた理由は? 今日ここに来た理由だって架空の彼女とランチデートを期待していたんだろう?」
この男の話を聞きながらずっと疑問に思っていた。 どうしてこの男は女装した自分に声を掛けたのか。
ホテルでうろついていた理由も定かではないし、何より一番不可解なのは、何故自分を選んだのかだ。
あの時、自分以外にも弓弦が女装していた。 顔立ちの良さから言えばナンパするなら断然向こうのほうが可愛かったと思うのだけれども……。
「そ、それは……魔がさしたというか……。あまりにもドストライクだったからつい……。アレがアンタだって知ってたら声なんてかけなかったよ」
「……」
コイツ、本気で一発殴ってもいいんじゃないだろうか?蓮は無言で拳を握り締める。
どうせなら、人気のない山奥にでも呼び出せばよかったかもしれない。流石に此処では人の目があり過ぎる。
チラリと兄を見てみれば、今の発言で更に怒りが増してしまったらしく、手に握ったフォークを力いっぱい折り曲げたところだった。
「……俺の弟が美人なのは認めるが、お前は万死に値する。このフォークのようになりたく無かったら、今知っている事を全部吐け。お前に拒否権は無い」
凛は真っ二つに折れ曲がってしまったフォークを塩田の目の前にコトリと置いて、顎を掴んで顔を覗き込んだ。
「ひぃっ、こ、怖っい、言います! 言いますからっ」
「兄さん……。言ってる事が色々とおかしい気もするけど……」
凛の言動に呆れつつ、まぁいいか。と、蓮は苦笑した。
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