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抜け出しちゃえ
「うぅ、ちょっと寒いね」
夕食後、蓮はナギと共にホテルの中庭を出て、ライトアップされた噴水を眺めながら秘密の逢瀬を楽しんでいた。
撮影中はもちろん、ホテルの中でも中々二人きりになれる時間が取れず、部屋も別々になってしまっている為、こうして二人で話せる時間はとても貴重だ。
本当なら温かい部屋で甘い時間を楽しみたいところだが、流石に兄に数時間部屋を開けてくれと言うわけにもいかない。
正直、今日は特に色々あり過ぎた。正直言ってナギが不足している。
「……ねぇ、凛さんってさ、お兄さんの事好きだよね?」
「え? そりゃまぁ。兄弟だし」
突然何を言い出すんだ? と思いながらも、蓮はその問いに素直に答える。しかし、その答えが不服だったのか、ナギは「そう言う意味じゃなくて……」と蓮の服の裾を引っ張った。
一体、どういう意味なのだろうか?
「お兄さんってさ、ほんっと自分の事になると鈍いよねぇ」
「え? なに? 酷くない?」
呆れたようにため息を吐くナギの言葉に思わず眉を寄せる。たった今の会話の何処が鈍いと言われる要素があったのか。
兄は昔からあんな感じで、自分に向けられた敵意に関しては親身になって考えてくれるし、最初に手を出すのも大抵が兄の方だった。
でもそれは、家族だからであって、けしてそれ以上の感情なんてあるはずが無いのに。
ごくたまに発するおかしな言動も、不器用な兄ならではの趣味の悪い冗談だと思っていたのだが、ナギの目には違う風に映っていたのだろうか?
確かに幼い頃から、「蓮は可愛い、美人だ」「お前は俺が守る」と言われ続け実際に何度も助けられて来た。けれどそれは、あくまでも弟に対する愛情表現の一つで、そこに恋愛的な要素は一切含まれていないはずだ。それが当たり前だと思っていたのだが違ったのだろうか?
「ま、いっか……。俺はそう言う鈍いお兄さんもいいと思うよ」
「……それ、絶対褒めてないだろ」
「ふふっ、そんなことないよ」
クスリと悪戯っぽく微笑む彼の表情にドキリと心臓が跳ねる。
「……っ、そんな顔、他の奴には見せるなよ」
「どうして?」
「どうしてもだ」
得体のしれない感情を誤魔化すように、ナギの肩を抱いてグッと自分の方へと引き寄せる。
彼はほんの一瞬だけ驚いたような顔をしたが、はにかんだように笑うとそっと全身の力を抜いて蓮の腕の中すっぽりと収まった。
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