261 / 351
遭遇 3
「なんだよあれ! ムカつく!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
帰りのタクシーの中、先ほどの件が納得いかない様子のナギは憤慨して窓の外に向かって拳を突き出している。
「みっきーの事何も知らないくせに……っ! みっきーの方があんな女より絶対可愛いのに!」
悔しそうに歯噛みして、握られた手が微かに震えているのは怒っている証拠だ。
「お兄さんは悔しくないわけ? あんな風に言われてさ」
「悔しいよ。悔しいし、ムカついてる……。けど、僕らが今どうこう言ったってしょうがないだろ?」
「……そう、だけどさ……でも……」
その言葉にナギはハッとした表情を浮かべると、ばつが悪そうな顔で俯いて黙り込んでしまった。
きっと彼なりに思うところがあるのだろう。
「その悔しさを、撮影に活かせばいい。いい作品を作り上げて、アイツらを見返してやろう」
「え? どういう、事?」
「思い出したんだ。今期のドラゴンライダー……あの二人は、主人公とヒロイン役を演じてた。視聴率もそこそこいいから、調子に乗ってるんだ。だから、叩き潰して天狗になってる鼻をポッキーンとへし折ってやろうよ」
そう言えば、この時間にあの二人があんな場所に居たという事は、つまりはあの二人もそう言う事なのだろう。
「……写真、撮っておけばよかったかな……」
「え? なに?」
ぼそりと呟いた蓮の言葉が聞き取れず、ナギが首を傾げると蓮は苦笑を浮かべて何でもないと誤魔化した。
「そんな事より……またお兄さんって……」
「あっ、ごめっ……でも、やっぱり恥ずかしいから……」
言い訳をしようとするナギの腕を引いて抱き寄せれば、素直に腕の中に収まる。
そのままドライバーには見えない位置まで移動して口付ければ、一瞬戸惑いの仕草をしたものの、すぐに応えてくれる。
ともだちにシェアしよう!