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変化する 4

対する雪之丞は昔からそう言う細かい作業が好きだと聞いた事がある。 だからなのか、慣れたように玉子焼きを巻いたり唐揚げを作ったりと、どんどんおかずを完成させていく。 「棗さんの方が安心して見てられるな」 「美味しいですよ。彼の作る料理は。見た目も綺麗ですし……」 「え? 草薙君は雪之丞の料理を食べた事があるのか?」 まさかの発言に驚いて弓弦を見てみれば、彼は明らかにしまった。と言うような表情をした。 「以前、タクシーで送って行ったお礼にとパウンドケーキを焼いて来てくれただけです。私はお礼なんていいと言ったんですが、彼は律儀なので……。言っておきますけど、べつに、そんなしょっちゅう食べさせてもらっているわけじゃないですから!」 何故か必死に言い訳をする弓弦が面白くてついニヤリと口元が緩んでしまう。 そうか。彼が雪之丞の手製の菓子を……。 これは良い事を聞いた。と心の中でほくそ笑んでいると、ふわんと食欲をそそるいい香りがホール全体に漂い始めた。 相変わらず美月はぎこちない動きを繰り返し、更には時々「焦げ付いた」だの、「上手く巻けない~」などと言う声が聞こえてきて、なんだかこちら迄ハラハラしてくる。 「本当に大丈夫かな……。アイツ」 東海は爪を噛みながらソワソワと落ち着かず、結弦も不安げな表情を浮かべたまま静かに美月の様子を伺っている。 その姿はまるで、初めてのお使いをする我が子を見守る親のようだ。 「草薙君がお姉さんを心配する気持ちはわからなくも無いけど、はるみんは随分美月君の事が気になるみたいだね」 「は、はぁっ!? そんなんじゃねぇし!! 別に、心配なんてしてない! ただ、変なもん食わせられるんじゃねぇかって、そっちの心配してただけだからっ!」 何気なく言った蓮の言葉に反応し、ムキになって反論して来た東海の顔は赤い。 おやおや? これは、この反応はもしかして……? 結弦も東海も中々に初々しい反応をしてくれるから、つい弄ってしまいたくなる。

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