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すれ違う
なんだかんだで忙しかった撮影も無事に終わり、地元に戻って来たのはクリスマス直前の朝方のことだった。
特にナギと約束をしていたわけでは無いが、初めてのクリスマスは当然一緒に過ごすものだと信じて疑わなかった。
だからナギがクリスマスは用事があると聞いた時には、自分でもびっくりするくらいショックを受けていた。
「ゴメンね。お兄さん。どうしてもはずせない用事があるんだ」
恋人の自分よりも大切な用事って一体何なんだろうか?
問い詰めてみたかったが、重い男だと思われたくなくて、結局何も言えなかった。
仕方なく雪之丞でも誘ってご飯でも。と思ったのに、今日に限って都合が悪いと断られてしまった。
今までだったら街に繰り出して適当な相手で時間を潰せたのに、流石にそんな気も起きず、一人でボーっとテレビを眺めるしかなかった。
「……はぁ」
一人で過ごすイブというのはなかなか虚しく感じる。
これならいっそナオミの店にでも行って、酒でも飲もうか。と一瞬そんな事が頭を過ったが、アイツに根掘り葉掘り聞かれるのは何となく癪に障るし、もしかしたら会いたくない人物と鉢合わせてしまうかもしれないので、やっぱりやめておくことにした。
ナギと一緒の時ならまだいいが、ぼっちな上に昔好きだった相手が目の前でいちゃ付いている姿を目撃するのは流石にダメージがデカすぎる。
聞けばしょっちゅうあの店に居るようだし、余計に居た堪れない気分になるだろう。
「あー……誰かと飲みに行きたい……。暇だ……」
そう呟きながら、チラリとスマホに視線を落とす。ナギは本当に忙しいらしく、LINEを送ってみても既読すらつかない。
ここ最近は朝から晩まで撮影やホテルでずっと一緒だったから、会えないことがこんなにも辛いとは思いもしなかった。
「……あぁ、くそ。僕ってこんなに女々しかったっけ……」
独りごちながら、溜息を一つ。
何となく自分の部屋に居ると余計に気が滅入りそうで、仕方なく気分転換でもしようとランニングウェアに着替えて外に出る。
肌を刺すような冷たい風を感じ、ブルッと体が震えた。
「さすがにこの格好じゃ寒いかな……」
薄着すぎたかと思いつつ、とりあえず運動がてらに近くの公園に行ってみる事にした。
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