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初対面

なんという怒涛の一日。 あれから、あっという間に濃くなった雨は周囲を一気に包み込み、蓮は直ぐ近くにあると言うナギの実家へと連れて来られた。 風邪をひいてはいけないからと、海斗君をナギが風呂に入れ、蓮が裸で走り回る少年を捕まえてタオルで拭き、服を着せて髪を乾かしてやった。 自分の近くには幼い子供はいないので、何をどう対応していいのかわからず、右往左往してしまった自分が情けない。 それから、半ば強引に風呂場へと押し込まれ、気が付けば小鳥遊家の風呂に入っている。 本当に良かったのだろうか? 何だか、どさくさに紛れて図々しく上がり込んでしまった気がする。 まさか、彼の実家の風呂に入るなんて思ってもみなかった。 湯船に浸かりながら、天井を見上げる。湯気でぼんやりと曇った視界の中で、蓮は一人溜息を吐いた。 今日一日、色んな事がありすぎた。クリスマスの日くらいはナギと一緒に過ごしたいと思ってはいたけれど、まさかこんな展開になるなんて。 そう言えば、昼間すれ違ったのはやっぱり彼だったのだろうか? 他人の空似にしては、あまりにも似すぎていたような気もするが……。 好きを拗らせて、本音が伝えられず結局他の男に取られてしまった彼――。 最後に会ったのはもう随分と前で、酷い事をしてしまったけじめとして連絡先も全て消してしまったから、彼が今どうしているのかはわからない。 ただ、彼氏と二人、仲良く元気でいてくれればいいと思う。 まだ、彼を想っているのかと聞かれれば、正直わからない。だけど、少なくとも今自分はナギの事を好ましく思っているし、何よりも大切だと思っている。 「――はぁ……上がろう」 これ以上、考え事をしていたら頭がのぼせてしまいそうだ。

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