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初対面 13
遠慮がちに顎を持ち上げていた蓮の手が、優しくナギの頬を包み込む。
引き合うみたいに唇を寄せ合い、触れるだけのキスをして、ゆっくり離れる。
「――……なんだか、くすぐったいな」
照れたように微笑むナギに、蓮はクスクスと笑みを零して再び触れ合うだけのキスをしようと顔を寄せる。
「ママ? そこでなにしてるの?」
突然、部屋の外から無垢な声が飛んで来て、二人はギョッとして思わず身体を離した。油の切れたロボットのように振り向くと、ナギの母親が隙間から顔を覗かせていた。
ナギそっくりな目をしたつぶらな瞳が蓮たちをジッと見つめていて、蓮は心臓が止まりそうなほど驚いた。
一体、いつから彼女は覗いていたのだろうか。
「か、かぁさんっ!ちょっと!何してんだよ」
「あらぁ、ごめんなさい。邪魔するつもりは無かったんだけど……。スマホ、リビングに置きっぱなしだったから届けようと思って」
ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべる母親の姿に、ナギは真っ赤な顔で口をパクパクさせている。
蓮は緊張と焦りで心臓が破裂しそうで、ごくりと唾を飲み込んだ。
「フフ、大丈夫。パパには言わないから。こっちの事は気にしないで、ゆっくりしてていいからね!」
満面の笑顔でそう言って、隙間からスマホを差し入れると恭しくドアが閉じられる。
パタン、と無情にも閉じられたドアを呆然と見つめながら、二人は同時に深いため息を吐いた。
「もー、いつもドアはノックしてって言ってるのに……」
はぁっと頭を抱えるナギに、蓮は苦笑いをする。
「まぁ、でも……お母さん公認? になれてよかったじゃないか。随分好意的な感じだったけど」
「それは……まぁ……そう、だけどさ……」
ナギははぁーっと深いため息を零すと、ガシガシッと頭を掻いてそれから蓮を見つめた。
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