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小さな亀裂
それからというもの、すっかり彼の母親に気に入られた蓮は、度々ナギの家へと呼び出され、一緒にご飯を食べたり、時には泊まったりと何かと家族ぐるみの付き合いをする日が多くなった。
彼の母親は何も言わないが、何か思うところがあるのかたまに意味深な視線を投げられる事がある。
全力で拒絶されるのも辛いが、これはこれで居心地が悪い。
「ごめんね。なんか母さんがお兄さんの事気に入っちゃったみたいで」
次の撮影場所へと向かう道の途中で、横を歩いていたナギが申し訳なさそうにそう零した。
蓮は足を止めずにチラリとナギの方へと視線を向ける。
「ハハッ。まぁ、お前なんかにナギはやらん! って、突っ撥ねられるよりはいいかなって思うよ。……まぁ、あの家ではキスも出来ないのが少し残念だけどね」
「ばっ……馬鹿ッ、昼間から変なこと言うなよ……っ」
蓮が意味深な笑みを浮かべると、ナギは真っ赤になってポカポカと背中を叩いて来る。
それがまた可愛くて、蓮は歩きながら声を上げて笑った。
「……全く、相変わらずのバカップルぶり。……見ているこっちが恥かしい」
少し後ろを歩いてた結弦が呆れたような声を上げ、他のメンバー達からも同意の声が上がる。
もはや、二人のイチャ付きっぷりはメンバー公認になりつつあるのか、最近は凛も何も言わなくなってしまった。
「酷いな。バカップルだなんて……」
「人前でイチャ付かないでと何度言っても治らないんだから、バカップルでしょう?」
蓮の反論に、弓弦はわざとらしく肩を竦めた。何故だろうか、言葉の端々に棘があるような気がする。
「まぁまぁ。いいんじゃない? 喧嘩してギクシャクするよりは、いつもどうりの方が安心するって言うか」
「……棗さんは本当にそれでいいんですか?」
雪之丞がフォローに入ると、弓弦がすかさず眉を寄せて問いかける。
「……ボ、ボクは……。二人が幸せならそれでいいよ。この間も言ったと思うけど……。もう、吹っ切れてるから」
「そう、ですか。 それならいいんですが」
にこりと笑いながら目を伏せ気味に話す雪之丞の表情を見て、弓弦は納得できないような表情を浮かべながらも、それ以上は何も言わなかった。
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