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小さな亀裂 4
「まぁまぁ、落ち着いて。はるみん。相手にしちゃダメ」
「わかってっけど……っ」
「あら、あなたね。弓弦君のオマケでオディションに合格したおチビさんは。一度貴女とはお話してみたいと思ってたのよ。最近、随分調子に乗ってるみたいねぇ。……でも、オマケはオマケらしく大人しくしといたほうがいいわよ?」
美月の背後から畳みかけるように高飛車で嫌味な女の声音が響く。
「は?」
「――ち、ちょっと!」
ピキッと美月の額に青筋が浮かぶのがわかった。それと同時に弓弦が慌てたような声を出し女と美月の間に割って入る。
「貴女、女優のMISAさんですよね? 僕の姉にそう言う事言うのは……」
「あら? 何か間違っている事言った? 草薙弓弦獲得の条件として貴方がそう自分から言い出したって、話だったけど」
「――えッ」
一瞬にして場の空気が凍り付くのがわかった。 弓弦が獅子レンジャーに出演する条件の一つが姉を合格させること――?
「……――っ」
「ふふ、違うって否定しないの? 出来ないわよねぇ? 私、犬飼監督に直接聞いちゃったんだから間違いはない筈よ? そうでしょう? 草薙君」
「そ、それは……」
MISAはクスクスと底意地の悪い笑みを浮かべながら、今度は弓弦の顔を覗き込んだ。
「――……なぁんだ。そう、だったんだ……。おかしいと思ってたのよね。こんなアタシが、獅子レンジャーなんて大きなプロジェクトのヒロイン候補に残るなんて……どうしてだろうってずっと思ってたけど……」
力なく静かにそう言って美月がゆっくりと顔を上げた。泣き笑いのような、どんな顔をしていいのかわからないと言った表情で眉を寄せ、視線を彷徨わせる。
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