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小さな亀裂 5

「なに? 知らなかったの? 悪い事言っちゃったかしら?」 「……おい、MISA。そろそろ行くぞ」 「はぁい。じゃぁ、またね」 莉音に促され、勝ち誇ったかのような嫌味な笑顔を向け、MISAはヒールをカツカツと鳴らしてその場を後にした。 「姉さ……」 「っ!アタシ! 飲み物買って来るね!! みんなは先に行ってて!」 「あっ、おい……っ!!」 重苦しい空気に包まれる中、美月は弾かれたように顔を上げ、無理やり作った引きつり笑いを浮かべたまま脱兎のごとき速さで走り去って行く。 「……っ、オレちょっと、みて来る!」 「わ、私も……」 「草薙君が行ったら余計拗れるだろ?」 一歩踏み出し掛けた弓弦を東海がひと睨みして制止する。 それから小さくため息を零すと、美月の走り去った方向を見つめ「後はよろしく。オッサン」と言い残して東海は去って行った。 「……よろしく、と言われても……」 「……大丈夫? 弓弦君。彼女の話は、本当?」 俯いて、その場に立ち尽くす弓弦の背を雪之丞がそっと慰めるように撫で、静かな口調で問いかける。 3人の視線が弓弦に集中し、重苦しい空気が辺りに漂う。 出来れば、彼女の妄言であって欲しい。その場に居た全員がそう思っていた。 だが……、弓弦は拳を握りしめると、微かに首を縦に振った。  「そんな……どうして……」 「……私に今回のオファが来た時、姉さんもオーディションを受けている事は知っていました……。今までずっと色々なオーディションを受けて、落ち込んで悲しんでいる姉さんをもう何度も、それこそ何十回も見て来た。オーディションに落ちた後、いつも部屋に閉じ籠って、膝を抱えて啜り泣く姉さんをずっと……。監督の部屋に呼び出された時、たまたま獅子ピンクの候補者たちのエントリーシートが目に入ったんです。勿論、こんな事したって姉さんが喜ぶわけがないって、頭ではわかってたんです。でも……」 弓弦は辛そうに顔を俯かせると、ギュッと拳を握りしめる。

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