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小さな亀裂 6

その拳は微かに震えていて、今にも泣きそうな程歪んでいた。 「姉さんは、沢山いいものを持ってるのに、それを正当に評価してもらえてない事に常々憤りを感じていました。だから、今回の件を皮切りに今まで姉さんを過小評価して来た人達をギャフンと言わせて、姉さんの実力を見せてやれるチャンスだと思ったんです。……だから」 弓弦はそこまで言うと唇を噛み、押し黙ってしまった。 「……なぁんだ。そう、だったんだ……」 少しの沈黙の後、ポツリ、と背後から声がして一斉にそちらを振り返る。 そこには東海に連れられて戻って来ていた美月が、眉尻を下げて力なく微笑んでいた。 「馬鹿ゆづ。なんで最初から言ってくれなかったのよ」 「姉さん……っ。すみません。言ったら傷付くとわかってたから……どうしても、言えなかったんです」 俯き、目にいっぱいの涙を浮かべて謝罪の言葉を口にする弓弦の姿に、美月はキュッと唇を噛むと、そっとその身体を抱き寄せた。 「高校生がいっちょ前に気なんか遣うんじゃないの! ……でも、経緯はどうあれアタシの為だったんでしょう? 腹も立つけど、実際今のアタシが居るのはゆづのお陰だし……」 美月は肩を竦めながらため息を漏らすと、ポンポンと弓弦の頭を軽く撫でて小さく微笑む。 「ごめっ、なさっ……、ごめっ……っ」 とうとう堪えきれずに大粒の涙を零し始めた弓弦を見ていると、普段沈着冷静で大人っぽい立ち居振る舞いをしている彼も、やはり年相応の少年なのだと感じさせられる。 彼は、今までどんな思いでその事実を一人で抱えて来たのだろうか? どんな想いで姉をずっと傍で支えて来たのだろうか……。 それと同時に、重大な秘密があんな性格の悪い女のせいでバレてしまうだなんて……。 「たく、ろくな事しないなあの監督は……」 蓮が呆れたように肩を竦めながらため息を漏らす。

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