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小さな亀裂 9

「兄さん、いつからそこに……」 「お前らがあまりにも遅いから様子を見に来たんだ」 「……何をもってって、御堂さん、どういう意味?」 「言葉のままだ。アイツらの社会的制裁を持って勝ちとするか、視聴率争いでの成果を持って勝ちとするか」 「はぁ? 何よそれ……」 凛の言葉に、美月が不服そうに顔を顰める。 「別に、視聴率さえよければいいじゃない。それで……」 「本当にそうか? 草薙さんはあの女からの謝罪の言葉が欲しくないのか?」 「そ、それは……だって……。わかってるもの。女としての魅力も演技力も、経験値も……。物凄くムカつくけどアタシには何一つあの女に勝てる部分が無いって」 「姉さ……ッ」 「ゆづは黙ってて! だって事実でしょ? 私は所詮ゆづのバーターだったんだから。そりゃ、あんなこと言われてムカつくし。どうしようもなく悲しいけど……」 美月が拳を握りしめ、唇を噛んだ。長い睫毛に縁取られた大きな目には、今にも零れ落ちそうなほどの涙が溜まっている。 「それに、たとえあの女に謝って貰っても、事実は変えられない。だったら、がむしゃらに頑張るしかないでしょう?」 悔しくないわけがない。それでもちゃんと自分の現状を理解し、冷静に分析している美月の事を蓮は凄いと思った。 それと同時に、なんて大人なんだろうかと感心した。美月は強い。本当に強い。 「ま、美月らしいって言えば、らしいよな。オレも美月の意見に賛成。だって、美月は何時もそうじゃん? 相手が誰であろうと、正面からぶつかってさ。なんか、そういうのって格好いいと思う。あのオバサン、美月の事舐め過ぎだっつーの!」 「はるみんは、美月が違う事言っても賛成って言いそうだけどね」 「はぁっ!? んなわけ無いじゃん! ばっかじゃねぇの!?」 ナギの揶揄い交じりの言葉にすかさず東海が顔を真っ赤にして反論する。 それにしても、なぜ兄はそんな事を言いだしたのか。相変わらず考えている事が読めない。 ワイワイといつもの調子を取り戻したメンバー達の様子を微笑ましく横目で見つつ、蓮は兄の側へ行くと、そっと袖を引っ張った。

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