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小さな亀裂 10

「兄さん……」 「なんだ?」 「なんであんな事言ったんだい?」 「……」 蓮の問いかけに、凛はチラリとほんの一瞬視線を寄越すと、直ぐにワイワイと騒ぎ出した面々を見つめながら小さくため息をつく。 「ウチのキャストにイチャモン付けて来たんだ。彼女が望むならそれ相応の制裁を。と思ったんだが……」 「制裁って……」 この人は何か、とんでもない事を考えているんじゃないだろうか? と、ふと思った。 自分が信頼を置いている人間にはそうでもないが、牙をむく相手には一切の容赦をしない。そんな兄の事だから、また何かよからぬ事を考えているのではと、正直不安になってしまう。 「兄さん。もしかして何かする気じゃ……」 「するわけ無いだろう。まず草薙さんがそれを望んでいない。……だが、お前に危害が及んだり、他のキャストに対してもこれ以上何かけしかけて来るようであれば、一切の容赦はしないがな」 淡々と話す兄の表情は相変わらず読めないが、冗談で言っているわけでは無い事だけは伝わって来る。 「やっと軌道に乗り始めたんだ。業界内でも公式動画の評判は上々で、特に彼女のツッコミと話の振り方、他のスタッフとの掛け合いが面白いと評判になっている。この間の弁当対決の棗とのギャップも再生数が凄いみたいだな。草薙さんは、伸びしろがあるから腐らせるわけにはいかないと思ってたんだが、芯も強いし、肝も据わっているし、負けん気も強い。あの程度の誹謗中傷では折れない精神力もある。面白い子だ」 「……」 兄が他のキャストについてこんなにも饒舌に語るのは珍しい。厳しい事ばかり言って、あまり他のメンバーとつるむ事さえしないのに……。 「蓮。しばらくは気を付けといたほうがいい。お前は最近、特に浮かれているからな。目立つ容姿をしているんだから目を付けられる可能性は否定できない」 「またそれ? もう耳にタコが出来たよ」 兄の含みのある言い方に、蓮は眉を寄せ、反論する。 「タコが出来るほど忠告しても聞かないお前が悪いんじゃないのか?」 「……わ、わかったって」 「わかればいい。さぁ、移動して午後からの撮影を始めるぞ」 そう言うと、凛は踵を返し、さっさと背を向けて歩き出してしまった。 「はぁ……、本当兄さんは心配性だなぁ……」 蓮は苦笑いしながら小さくため息をつくと、チラリとナギの方を見てから急いで兄の背中を追った。

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