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OFFの日 2
ほんの少し緊張している自分が何だか可笑しい。
映画に誘う位簡単じゃないか。
そう自分に言い聞かせるように心の中で呟いてから、蓮はナギの方を振り返った。
「ナギは、明日何か用事がある?」
「別にこれと言って無いけど……急に改まって、なに? あ、もしかして……」
何を思ったのかナギはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべると、蓮の顔を覗き込んでくる。
「……っ」
思わず、目を逸らしてしまいそうになるのをグッと堪え見つめ返すと、ナギがするりと身体を寄せて来た。
ふわりと香るフレグランスの匂いに、自然と気分が高揚していくのがわかる。
「も~、お兄さんのエッチ。まだみんないるのにさぁ……」
「え?」
一体何の事だろうか?
何やら勘違いしているナギに、蓮はキョトンとした顔で首を傾げた。
「改まって聞かれると恥ずかしいじゃん。えっと、つまりさ。……そう言う事したいんでしょ?」
最近お互い忙しくってゆっくり出来なかったしね。と、少し照れながら言うナギに、蓮は思わず持っていた封筒をグシャリと握り潰しそうになった。
何がどうなってそっち方面で捉えたのか……。
もしかして、自分=ヤる事しか頭にない。みたいな図式がナギの中に出来上がっているのか?
まぁ、確かにスるのは嫌いでは無いし、寧ろ大好きだけれども!
じゃ、なくて!
「まぁ、シたいのは確かにそうなんだけど……。そうじゃなくて! 明日さ、映画に行かないか? って……誘おうかと思っただけだったんだけど……」
「――へ? えっ、あ……」
苦笑しながら差し出したチケットを見て、自分の勘違いに気付いたナギが、じわじわと首から赤くなっていくのがわかった。
「あー俺、用事があったんでお先に失礼しまーす」
「はるみん待って! アタシも! じゃぁまた!!」
「……棗さん、私達も出ましょうか」
「えっ? あ、ははっ……うん。そう、だね」
場の空気を読んだのか、示し合わせたかのようにそそくさと部屋を出て行くメンバー達の姿に何とも言えない居た堪れなさが込み上げてきて、蓮は思わず天を仰いだ。
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