314 / 351

OFFの日 6

「うわ……凄い」 映画館へ出向くと、壁のあちこちに宣伝用のポスターが飾られていた。普段一緒に居る時にはそんな風に感じないが、弓弦の番宣用ポスターの前で写真を撮っている女性客の姿を見ていると改めて彼の凄さが窺い知れる。 「一緒に仕事してる時は、クールな高校生って感じがするんだけど。こうやって見ると、やっぱり有名人なんだなって感じるよ」 「確かに。弓弦君って凄かったんだ……。わかってた事だけど、格差を見せ付けられた感じ?」 「何それ」 思わず苦笑しつつナギに視線を移せば、ナギはポスターを眺めながら眩しそうに目を細めていた。 「だってさ、やっぱすげぇって思うし。俺なんてまだまだ駆け出しで、代表作だって今やってる獅子レンジャーだけで……。こうやって、主役張って映画に出てるのとか見ちゃうと、やっぱ敵わないなぁって思うし……」 ナギは目を伏せて軽く息を吐く。 それは、まるで羨望と諦めの籠ったようなため息だった。 「……そろそろ行こうか」 「うん」 なにを言っても、どんな言葉を並べたって、自分の気持ちは上手くナギに伝わらない気がして蓮は敢えてそこには触れずにそっと手を握ってチケットをナギに手渡し、ゲートをくぐって中に入った。 平日の昼間と言う事もあって、館内は思ったよりも空いていたが、話題作の為か、そこそこ人が入っている。 一番後ろの方に設置してあるカップルシートと呼ばれる2人掛けのソファーに座ると肩と肩が触れ合い、自然と身体を寄せ合う形になる。 「……何か、恥ずかしいな」 ナギは照れを隠すように蓮に身体を凭れ掛からせ、ぐりぐりと頭を蓮の胸に押し付けた。 「え、そう? 僕は気にならないけど」 そっと肩を抱き寄せこめかみに唇を押し当てる。 「っ……ちょっと!」 薄暗い館内でハッキリと見える訳ではないが、ナギはきっと顔を真っ赤にして怒っているのだろう。何となく気配でわかる。

ともだちにシェアしよう!