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OFFの日 7
「何で? 誰も見てないよ」
「そういう問題じゃなくて、やっぱり恥ずかしいてばっ」
シレっと言いながら唇を寄せると、流石に恥ずかしさのピークに達したのか、ナギがポカポカと蓮の胸を叩きながらむくれた様に唇を尖らせる。
その仕草がまた可愛くて、蓮は思わず笑ってしまった。
「もー、笑わうなよ。俺、怒ってるんだから」
「ごめん、ごめん。ナギがあんまり可愛いから……」
そう言って抱きしめてやれば、ナギはボソッと「バカ」と呟いた。それでも抵抗しない所を見ると、本気で怒ってる訳ではないのだろう。
そうこうしているうちに映画が始まり、そっと手を握り締めながら大画面へと意識を集中させる。
ストーリーは、ずっと一緒に育ってきた幼馴染の男女の日常が描かれ、それが彼女の病気発覚により崩れて行き、次第にすれ違い、最後は……。
そんなベタベタのストーリーなのだが、演出がとても良くて話にどんどん引きこまれていく。
普段あまりドラマや映画を観る機会が少ない蓮ですらそう思うのだ。隣に座るナギはどうだろう? と、隣をそっと盗み見ると、スクリーンを食い入る様に見つめる真剣な横顔があった。
(こういうの、好きなのか?)
内心意外に思いつつ、そっと肩を抱き寄せると、ナギはちらっと視線を向けたが、すぐにスクリーンへと視線を戻してしまう。
丁度画面上では、弓弦扮する主人公達のキスシーンが繰り広げられており、それを食い入る様に見つめるナギに何とも言えない気分になった。
(こんな風なキスがしたいと思ったのかな? それってちょっとムカつく……)
ムカムカと湧き上がってくるどす黒い感情を無理矢理押し殺そうとするが、一度芽生えてしまった嫉妬心は留まる事を知らない。
映画の中の友人にすら嫉妬するなんて自分はなんて心が狭いんだ。と、蓮は自嘲的に笑う。
少し長めのキスシーンが終わると、ナギはどこかホッとしたような表情を浮かべて蓮の腕に甘えるように頭を預けてきた。
その様子は何だか可愛らしくて思わず頬が緩みそうになってしまうが、先ほど心に芽生えた嫉妬の炎は未だ健在で、自然と眉間に皺が寄ってしまう。
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