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OFFの日 8
そんな蓮の様子に気付いたのか、ナギは不思議そうに顔を覗き込んできた。
「どうかした?」
「……別に」
まさか、映画のキスシーンに嫉妬してました。なんて言えるわけもなく、言葉を濁すと、ナギは怪訝そうに眉間に皺を寄せた。
「嘘。絶対怒ってる」
「怒ってない」
「でも……」
「何でもないって」
尚も食い下がるナギだったが、蓮は顔を背けてその言葉を遮る。流石にここまであからさまな態度をとられ、ナギも気分を害したようだ。唇を尖らせて不服そうにしている。
こんなのただの八つ当たりだ。いい歳をして何をやってるんだと心底自分が嫌になる。
「もう、何だよ。じゃぁいいよ」
プイっと顔をそむけてしまったナギを見て、しまった! っと後悔しても今更遅い。
「――る……」
「え?」
「もう帰るから」
そう言って映画の途中で立ち上がろうとしたナギの腕を、蓮は慌てて掴んだ。
「待って」
「なんだよ」
「ごめん。八つ当たりした……」
バツが悪そうに視線を逸らすと、ナギは小さくため息をつく。
「もぅ……何それ……。子供みたいじゃん」
呆れたように呟くが、ナギは蓮の手を振り払う事はしなかった。寧ろ宥める様にそっと手の甲を撫でてくれる。
「さっきのキスシーンに嫉妬してた」
思い切って正直に白状すると、ナギは少し困ったような顔をした。
変な事を言って呆れられたかな? と、一瞬不安になったが、その心配は杞憂に終わったらしい。ナギは身体ごと蓮に向き合うと、何も言わずにぎゅっと抱き付いてきた。
肩口に顔をうずめているからその表情はわからないけれど、耳がほんのりと赤くなっているのが見える。
「お兄さんって、ほんっとに……本当に馬鹿、だよね……」
全くもって酷い言われようだ。でも、そんなことも気にならない位、胸にじんわりとしたあたたかさが広がって、蓮はぎゅっとナギを抱きしめた。
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