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トラブル 

翌日、二人連れ立って現場に行くと、辺りは物々しい雰囲気に包まれていた。 スタッフがバタバタと走り回り、そこかしこから指示の声が飛ぶ。 「おはよう。やけに騒々しいけど……何かあった?」 近くにいた雪之丞に声を掛けると、彼は一瞬ビクッと肩を跳ねさせてから蓮の方に視線を向ける。 「蓮君! えっとボクたちも今来たばかりで何が何だか……」 「私達が到着した時にはもう、こんな状態で……スタッフも誰一人詳細を教えてくれないし、訳がわからないんです」 どうやら二人も状況が把握できておらず、困惑しているようだ。 「現場にはトラブルは付き物だし、俺たちある程度の修羅場は乗り越えて来たけど……今回はなんだろう?」 ナギが不安気に蓮の裾をギュッと握りながら問いかけて来る。 最近は結束力も高まって来ており、いつもならもっと和気あいあいとしている現場で、こんなに雰囲気が張り詰めている事はあまり無かったのに。 スタッフたちの慌てっぷりから察するに、何かが紛失したか、もしくは見付かってはいけない秘密文書が見つかったか……。 それとも、また何かあの役立たず監督が何かやらかしたのだろうか? 「取り敢えず僕は兄さんに連絡を取ってみるよ。 ……そう言えば、美月君は? 今日は一緒じゃ無いのかい?」 スマホを弄りながら姿の見えない美月の行方を問うと、弓弦が気まずそうに視線を泳がせた。 「それが……今日は、その……。姉さんとは会ってなくて」 「会ってない? それってどう言う……」 確か弓弦は美月と共に実家暮らしだった筈だ。それなのに、会ってないと言うのは一体どういう事なのか。 もしかして、先日のMISAとの一件で自信を無くしてしまって嫌になってしまったとか? いや、まさか! 昨日会った時にはそんな素振りは全く見せていなかった……。 それか何か事件に巻き込まれたとか? 一抹の不安が脳裏を過ぎる。

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