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取引
薄暗い部屋の中、蓮は一人放送開始から現在まで配信されている獅子レンジャーの過去の映像を真剣に観ていた。
目を閉じても浮かんでくる撮影所の裏側。 初めて与えられたスーツに袖を通した時の緊張感。
大勢のスタッフ達が忙しなく動き回る様子や、真剣な眼差しでモニターを見つめる凛達の姿。時には長時間にも及んだアクションシーン。 引っ込み思案で空気みたいな存在だった雪之丞がCGを担当してくれると言い出した時は本気で驚いたし、美月は動画配信において色々な提案をしてくれた。
そのお陰もあって、獅子レンジャーの人気はうなぎ登り。その全ての思い出が蓮の脳内に焼き付いている。だからこそ、今こんな辛い状況になっている事が悔しくて仕方なかった。
(どうして……どうしてこんな事に……)
一体誰がこんな事を? 作品に対する恨みだろうか? それとも蓮個人の問題?
雑誌が発売されてあの記事が公になれば、ナギの俳優生命に傷を付けてしまうかもしれない。
兄から貰った原稿と同封されている写真を手に、思わず深い溜息が洩れる。
「――あれ?」
ふと、何か違和感を覚えて蓮は首を傾げた。
写真には肩を寄せ合ってベンチに座り、談笑している自分たちの姿が映っている。背景にあるホテルも如何わしい見た目ではなく、何処にでもあるビルだ。
こんな写真を撮られた覚えはないのだが……、一体誰が撮影していたのだろうか?
記事の内容は、自分とナギが深い関係にあるのではないかと匂わせるような言い回しだった。それはまぁ、仕方のない事だとしても、この写真だけで関係を疑われると言うのは聊か無理があるように思える。
恐らく、他にも大胆な写真を持っていると思われるが、この写真に限って言えば反論の余地は十分にありそうだ。
それに、この写真は恐らく、背景などから見ても山に遠征に行った時のモノに違いない。
あの時、出会ったのは確か莉音だった筈。
「……この写真の提供者はアイツ……か?」
憶測でものを言ってはいけないとは思うものの、そうでもなければこんな写真が撮影できるわけがない。
昔からアイツとは反りが合わなかったし、蓮がゲイであることも知っていた。だけど、だからと言ってこんな写真を撮るなんて……。いくら嫌いな相手と言えどこんな事をしていい筈がない。蓮は頭を抱えて深く溜息を吐いた。
と、その時不意に、テーブルに置いていたスマホが着信を告げる。
画面を見てみれば、そこには『結弦』の文字。
彼から電話が掛かって来るなんて、珍しい。
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