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取引 4
「はい」
『良かった! 出た。あのさ……大した用事って程でもないんだけど……』
何時もの元気そうなナギの声に何処かホッと胸をなで下ろす。でも、一体なんだろう? もしかして、自分とはやっぱり付き合っていられないとか言う別れ話だろうか?
「……っ」
『お兄さん? 大丈夫?』
「……ちょ、ちょっと待って。深呼吸させて……覚悟するから」
『へ? 覚悟? 一体何の話?』
困惑するナギの声を聞きながら、蓮は大きく息を吸い込んで……一気に吐き出した。
それを何度か繰り返し、もう一度スマホに耳を押し当てる。
「わかってる。 別れ話だろ?」
思わず声が震えた。実際、そんなすぐに覚悟なんて出来るはずない。
『……え? はぁ!? 何それ』
数秒の沈黙が流れ、ナギが呆れたような声を上げた。
『なんでそんな話になってんだよ。そんなわけないだろ! 』
すぐさま否定の声が耳に響いて、心底ほっとし胸をなでおろす。良かった。こんなにトラブルばかりの男、もう嫌だと言われるのかと思った。
「……じゃあ、わざわざ電話してくるような内容って?」
『……ただ声が聞きたかったってだけだけど……』
「え?」
『わ、悪いかよ! だって、全然連絡寄越さないじゃん!』
拗ねた様な声が聞こえて来て思わず苦笑する。
「ごめん、ナギ。忘れてたわけじゃないよ。ただ……君の声を聞いたらどうしても会いたくなっちゃうから、控えていたんだ」
『……そんなの……狡いよ』
「え?」
『会いたくなるのは……俺の方だって同じだし。……でも……メッセージの一つくらいくれたって良くない?』
きっと今、ナギは凄くぶすっとした顔をしているのだろう。その顔を想像した
ら、途端に愛おしさがこみ上げてくる。
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