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取引 7

「……蓮、ちょっといいか」 蓮へと割り当てられていた部屋で美月が立ち上げた公式動画を眺めていると、戻って来た兄が神妙な面持ちでそう声を掛けて来た。 例の件があってからと言うもの、兄はいつも以上に帰りが遅く、酷く疲れた顔をするようになった。 きっと、蓮を庇うために色々と奔走してくれているのだろう。その事は凄く嬉しいし感謝もしている。だが……そのせいで兄が倒れてしまったら意味がない。 「兄さん、本当に大丈夫? 顔色が良くないみたいだけど……」 「問題ない。それより、少し困ったことになったんだ」 「困った事?」 蓮の問い掛けに、凛が深い溜息で返す。 「例のお前たちの記事だが、明後日発売の雑誌に載る事になるそうだ」 「え!? そんな急に?」 いくらなんでも急過ぎる。正式に抗議文を送ってからそんなに日は経っていない。なのにもう記事にされてしまうなんて。 「これでもだいぶ融通を利かせて貰った方だ。いくら俺でもこれ以上は対処しきれん」 「そんな……」 「お前たちに矛先が向く前になんとかしたかったんだが……。どうしたものか……」 そう呟いた凛の表情があまりに苦渋に満ちていて、蓮はそれ以上何も言えなかった。 インパクトのある情報を売り込むにしても、時間が無さ過ぎる。それに今、不用意に動けば、余計に自分たちの首を絞める事になりかねない。 「いっそ、付き合うのをやめたらどうだ? 最初から無かったことにすれば事実無根だと誤魔化せ――」 「兄さん!」 思わず声を上げて兄の言葉を遮った。兄が冗談を言うようなタイプでは無いのはわかっている。だからこそ、その言葉を聞き流す事なんて出来なかった。 「僕は何があってもナギと別れるつもりはないよ。一瞬、そうした方がいいんじゃないかって不安に思った事もあったけど、ナギも僕と同じ気持ちだって確信したから」 「……そうか……」 凛はハッとしたような顔でそう呟くと、唇をきゅっと引き結んで苦虫を嚙みつぶしたような表情をした。それ以上は何も言わず、蓮に背を向けてドアの方へと歩き出す。 「兄さん?」 「……どうして俺は、お前の兄貴なんだろうな……」 「え?」 ボソボソと早口で言われた言葉を聞き取れず聞き返すが、兄はそれに答える事無くそのまま部屋を出て行ってしまった。

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