344 / 351
取引 8
追いかけた方がいいだろうか? そう思って立ち上がりかけたその時。蓮のスマホが震えた。
見るとメッセージアプリに、莉音とMISAだとハッキリわかる二人が、恋人つなぎでイチャイチャしながら歩いている画像が「発見!」と言う言葉と共に貼られていた。
メッセージの送信主はナギ。
過去の古い写真を見返していた際、大阪で撮った写真の中に紛れていたのだと言う。
兄の事は気になるが、今はナギとの事が最優先だ。
だが、これだけでは情報が弱い。もっと自分たちの記事よりインパクトのあるネタが無いと今更変更できないと言われかねない。
ソワソワして落ち着かない。頼みの綱である東雲からはまだ何も連絡はない。
やはりそんなに直ぐにネタが集まるなんて事は無理だったのだろうか。
せめて、記事が出る前にもっと面白いネタになるような出来事に遭遇出来れば……。だいたい、自分を狙っている犯人だってわからないと言うのに。
「……問題は山積み……だな」
溜息交じりにスマホをベッドに放り投げて、自分もその上に倒れ込み、部屋の電気を消した。
******
翌日はどんよりとした曇り空だった。 幸い、雨は降っていないものの重苦しい天気はまるで自分の心をそのまま表しているかのようで、沈んだ気分に拍車をかける。
だがそんな事を言っている暇はない。今日中に何とかしなければ、例の記事が世間一般に晒されてしまう。
結局兄とは昨夜から口を利いていない。何故か避けられているようで、朝起きたら既に凛の姿はなかった。
その事実が余計に蓮の表情を暗くさせた。
「おはようございます御堂さん。大丈夫ですか?」
重苦しい息を吐き、項垂れていると背後から爽やかな声が掛かり、振り返る。
そこには、きっちりと学校の制服を身に纏った結弦が心配そうに眉を寄せながら佇んでいた。
昨夜のうちに、結弦にだけは例の記事が明日発売の週刊誌に載ることが決定したと連絡を入れておいたのだ。
それから数十分も経たないうちに、彼は編集長へと直接掛け合ってくれて今日、話し合いの場を設ける約束を取り付けてくれたらしい。
「先方には無理言って30分だけ時間を作ってもらいました。私も同席すると言う条件付きですが、頑張りましょう」
本当に、頼もしい男だと蓮は思った。幼いころから第一線で活躍し、様々な実績を積み重ねて来た彼だからこそ、ある程度の我儘も許されるのだろう。
ともだちにシェアしよう!