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取引9

「そうだね。本当にキミが居てくれてよかった」 「安心するのは無事に交渉が成立してからですよ御堂さん」 「勿論だよ。それはわかってる……」 蓮は結弦の言葉に小さく頷いて見せた。頭ではわかっているのだが、いざその瞬間を目前にすると不安で押しつぶされてしまいそうになる。 東雲には今日の場所も時間も教えてある。間に合う保証は何処にもないが、無いならないで何とか自分が有利な方向へ持っていけるように交渉しなければいけない。 緊張した面持ちで雑誌の編集部が入っている自社ビルの前まで行くと、そこに3つの影があった。 「も~、遅いよ。二人とも!」 「な……っ、美月君!?……それに雪之丞とはるみんも……どうして」 まさか、3人が待ち構えているとは思いもしなかった。 「ボク達に何が出来るって訳じゃないけど……。美月さんから話を聞いていても経ってもいられなくってさ」 雪之丞が申し訳なさそうな顔をしながらそう言った。 「ごめん。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど、結弦達の会話聞いちゃったの」 「姉さん……」 「たく、今更おれ達だけ除け者なんて酷くね? 今までどんな困難だって全員で立ち向かってきたじゃん。……流石にナギには言えなかったんだけど」 「みんな……ありがとう。ナギには言わなくていいよ。どのみち自宅謹慎中で出られないだろうし。ナギにはいい知らせを持って会いに行きたいしね」 「うん、それがいいと思う」 3人はそう言って笑ってくれた。ああ、本当になんて頼もしい仲間たちなのだろうと胸が熱くなる。 結弦がホッとしたように表情を緩め、蓮も肩から力が抜けていくのを感じた。 このメンバーには本当に世話になりっぱなしだ。本当に良い友人に恵まれたと思うし、いつか彼らに恩返しをするのが自分の役割なんじゃないだろうかと最近になって思うようになってきた。 だからこそ、此処で記事が出るのを食い止めなくてはいけない。 なんとしても、この仲間達の未来に傷がつくような事があってはいけないのだ。

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