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取引 13
「何の騒ぎだ? 今は……」
苛立った犬飼の怒声と共に飛び込んできたのは息を切らした東雲だった。
「はぁ、はぁ……遅くなったけど、例の資料……。俺に出来るのは此処までだから……」
警備員に両腕を掴まれ、部屋から引きずり出される直前に東雲は封書を投げて寄越した。
後は頑張れ。と、言わんばかりの表情で親指を立て、警備員に連行されていった東雲に心の中で感謝の言葉を述べると、蓮は落ちた封書を拾って中身を確認し、犬飼に向き合った。
「すみません。彼、僕の古い友人なんです。どうしても今回の件が納得いかないって言ってて。……それより犬飼さん。僕と取引しませんか?」
「なんだと? 取引……?」
東雲のお陰で犬飼を丸め込む材料は揃った。後は、この男が乗ってくれるかどうかだ。
「あまり友人を売るような真似はしたくないんですが……」
出来る限り神妙な顔と声色で、躊躇いがちに此処に来る前にプリントアウトしたMISAと莉音の写真をそっと差し出す。
「僕と小鳥遊君の記事を取り消してくれたら、もっと面白い情報を提供して差し上げます」
「ハッ、彼らの噂はまことしやかにささやかれていたからね、今更インパクトは薄いだろう。バカにして貰っちゃぁ困るよ御堂君。何年この業界でやって来てると思ってるんだ、優先順位的には彼らは後だよ」
案の定、犬飼は写真を見ると難色を示した。寧ろ、馬鹿にするなとでも言いたげな態度に腹が立つ。それはそうだろう。普通の男女の恋愛なんて読者は見飽きている筈だ。MISAも人気女優の一人ではあるが国民的スターと言うほどではないし、莉音に至ってはただのアクターだ。 蓮たちのお陰でアクターにもスポットが当たり始めたといっても、まだまだ知名度は低い。
もっとセンセーショナルな情報の方が食いつきがいいに決まっている。
だがそれも想定内だ。
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