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第24話

勢いよくドアを開けたオリヴァーに、僕は反射的に飛び上がるように席を立ち座っていたイスをオリヴァーに譲った。けれど彼はそのイスを引き、まずはアマンダさんをエスコートして座らせてから自らはその隣のイスを引っ張り出しどっかりと腰を下ろす。 問い詰められ、昨夜のことを鮮明に思い出していた所に本人のご登場だ。和解はしたものの何となく気まずくて、僕は逃げるように隅にたたまれていたパイプ椅子をその場で開き腰を下ろした。 そもそもこの仕事の場では僕に出る幕なんてないのだから。 「おいシキ、曲は書き上がったんだろうな?」 「なんでお前はそう偉そうなんだよ。……ったく、出来てるよ。」 足を組みふんぞり返るオリヴァーに(しき)さんははぁ、とため息をつきながらも鞄から楽譜を取りだしデスクに投げ置く。 「前にも話したけどこいつは映画音楽だからな、テンポはある程度守れ。重奏に関しては先にピアノパートを録ってるから、悪いがそれに合わせてもらう。」 「オーケイ。」 肩にかけていたヴァイオリンケースをデスクに置き、手にした楽譜に目を通しながら、オリヴァーはふ、と楽しそうに口の端を歪めた。 「ふはっ、めちゃくちゃだな。なぜこの主旋律にこの音を合わせようなんて考えつくんだ?お前の頭の中はどうなってる。」 どうやら曲はお気に召したらしい。譜面に目を通しながら次第に口角を上げソワソワとしはじめたオリヴァー。 そのわずかな変化が何を意味するのか、彼の思考がわかってしまった僕は、一通り目を通し終えてそのオーシャンブルーの瞳が譜面から僕へと向けられるより前に口を開いていた。 「なぁ、シー…」 「このスタジオ、あと三時間は使えますよ。」 疑問より先に答えを告げれば、オーシャンブルーは満足そうに細められた。 ……今日こそは仕事も落ち着いてのんびりできると思ったのだけれど、どうやら諦めるしかないらしい。 僕の気持ちを代弁するかのように色さんははぁ、とこめかみを押さえる。 「オリー、お前なぁ。」 「ふん、こんなもの渡されてそのまま帰れるか。ホテルじゃまともに弾けないだろうか。」 そうでしょうとも。 そして練習後はまた夕食に付き合えと言われることまでもうわかりきっている。どうやら、今日もとことん振り回される覚悟を決めるしかないらしい。周りから僕に注がれる哀れみの視線に僕は肩をすくめるしかなかった。 そんな僕の事なんて微塵も気にすることなくオリヴァーはヴァイオリンケースと楽譜を手に、嬉々として席を立ち上がる。 けれど、そこにアマンダさんが待たをかけた。 「ちょっとオリヴァー。何のためにここまで来たのか本題を忘れてない?」 アマンダさんの言葉にオリヴァーはん?と動きを止める。んー、と首を捻り視線を左右にめぐら何かを考え込んでいたようだが、ややあってようやくアマンダさんの言わんとした事を思い出したのだろう、ああ!と声を上げる。 「そうだシキ、お前に用事があってきたんだ。」 「は?用事って…」 楽譜の受け取りであればこうして既に終了している。とすれば、彼の目的はほかにもあるという事だ。 一体何が? わけがわからず視線を合わせ首を傾ける僕と黒澤さんと色さんを前に、オリヴァーは手にしていたヴァイオリンケースのポケットから1枚の封筒を取り出し、何故だかしたり顔でそれを色さんに押しつけてきた。

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