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第25話
「今朝は色々あって渡しそびれたからな。」
「はぁ?一体何…」
強制的に手渡された封筒を開いたところで色 さんはピタリと動きを止めた。そこに入っていたものに目を見開き顔を上げる。
色さんだけじゃない、僕も黒澤さんも思わず椅子から腰を浮かせた。
「お前、これ、」
「アスカが行きたかったと嘆いていたからな。」
ここからでは印字までは確認できないけれど、色さんの手にしているそれは、たぶん、チケット。秒でソウルドアウトしたあの、幻の、
「ずるい!俺これとるのめちゃくちゃ苦労したんですよ!」
「え!?黒澤さんチケットとれたのかよ!?」
「スケジュール調整して、使える知り合い全部使いましたからね。」
「うわ、羨ましい!ぼ、私だってやれる事全部やったのに……」
お願いできそうな知り合いには全て声をかけて、仕事も実はこっそり抜け出して。それでもご用意されなかったあの幻のチケットが目の前に。ああ、羨ましすぎる!
「なんだ、お前達も来たかったのか。早く言えば用意してやったのに。」
「いやぁ、仕事相手だからっていってもそこはねぇ。」
「……公私は分けて考えないと、ですよね。」
僕と黒澤さんのため息混じりのぼやきに、オリヴァーの隣でやり取りを静観していたアマンダさんが律儀ねと笑う。
黒澤さんも僕も思わず睨みつけるように色さんの手元を見つめてしまった。
僕らの圧に気圧されてか、色さんは半分取り出していたチケットを素早く封筒に戻す。
「お、俺も飛鳥 も、授業受けてる間にチケット売り切れてたからな。あいつ喜ぶよ。」
「ふふん、そうだろうとも。アスカとアスカのマネージャーで親友だと言っていた……アキラだったか?二人に渡しておいてくれ。」
ニヤリ、口角を上げるオリヴァーにThank youと口を開きかけた色さんが口を噤んだ。
じ、と手元の封筒に視線を落とし、そっと封筒を開いて中に入っているチケットを確認する。
二枚。
どうやっても増えることのないチケットを数秒眺めてから、色さんのじとっとした視線がオリヴァーへと向けられた。
「どうした?渡す人間を俺が決めて何が悪い?」
楽しげに口元を歪めるオリヴァーに、色さんの口元はむすっとへの字に曲げられる。
「……別にいいけどよ。」
心底嫌そうな声に、ついにはオリヴァーは腹を抱えて爆笑した。
「あっはっは、ジョークに決まってるだろ。」
まったくこの人は。
僕はオリヴァーの背後で呆れ顔をしていたアマンダさんとほとんど同時に深いため息を吐いていた。
多分オリヴァー、色さんの事相当に気に入ってるんだろうな。この人は間違いなく好きな子ほどいじめちゃうタイプだ。
「オリー、お前なぁ。」
「ふははっ、このオレがシキを呼ばないわけがないだろ?……アマンダ、」
笑い過ぎて滲んできた涙を指先で拭いながら、オリヴァーはアマンダさんへと手を伸ばす。どうぞと彼女から手渡された大きめの封筒を受け取り、彼はそれをそのまま色さんに手渡した。
A4サイズの封筒はサイズからして中身はチケットではないんだろう。
今度は何が出てくるのか。
ごくりと息を飲み身構えてから色さんは封筒を開いた。僕も黒澤さんも中身が気になって背後からそっと覗き込む。
ニヤリと口の端をつり上げるオリヴァーを視界の隅に捉えながら、恐る恐る色さんが封筒から取り出したのは一枚の書類。
「シキにはオレから特別席をプレゼントしてやる。……ステージの上に、な。」
「「「な、」」」
オリヴァーの言葉と書類に記されていた「出演契約書」の文字に、僕達は同時に言葉を失っていた。
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