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第68話 渇望の果てに※

※性描写が入ります。苦手な方はご注意を。 わずかに触れた唇はあっという間に離れて、またすぐに触れようと距離を縮めてくる。 ふわりと香るシトラスの香り。 けれど、僕はそれを彼の胸を押して拒絶した。 「っ、ダメ……」 「はぁ!?」 端正な顔が、わかりやすく不機嫌に歪められる。 「あのなぁ、これ以上何があると言うんだ!大人しく…」 「そうじゃなくて、その……誰かに、見られたら……」 オリヴァーを直視出来ずに俯いて視線を泳がせていたのだけれど、彼の探るような視線が僕の身体を這っているのがわかった。 その口元がうれしそうにニヤリと歪められたのも。 「……見られていなければいいんだな?」 耳元で囁かれた声に、僕は俯いたまま何も言えなかった。けれどそれは肯定と同じなわけで。 「ホテルに帰るぞ。」 強引に僕を立たせ、強く引く手を拒絶することは僕にはできなかった。 ホテルに向かう車の中も、オーシャンブルーがそこに欲望の色を落としてずっと僕を見つめていたのはわかっていた。意識しないようにと思えば思うほど、身体が熱をもっていくのを止められない。 ホテルについてハンドルを離した途端にまた強く手を引かれた。 国内最高とも呼び声高い、高級ホテルの上階にある特別フロア。専用ラウンジには一般客は入れないようになってはいるけれど、専属のアテンダントさん達はいるわけで。 けれど、そんな人達の視線を気にしている余裕は僕にもオリヴァーにもなかった。 掴まれたその手の熱に、理性も羞恥も何もかもが溶かされていく。人前だろうと決して離されることなくがっちりと掴まれた手を、僕は拒まなかった。 「あの、オリ……っん、」 ラウンジを抜けて部屋に入るなり壁に押し付けられた。眼鏡を奪い取られると同時に性急に重ねられる唇。熱い舌が歯列を割り込んでくる感覚だけで眩暈がする。上顎を擦られ舌を吸われれば、それだけで力が抜けてその場に崩れ落ちそうになった。 辛うじて残る理性で肩にかけていたヴァイオリンケースを落としてしまう前にと足元に降ろせば、オリヴァーも小さく笑ってその隣にヴァイオリンケースを立てかける。 「シー、」 「……オリ、ヴァー………」 至近距離で彼の瞳が僕を見下ろす。その情欲に濡れた瞳を見てしまうと、僕も我慢が出来なくなる。 駄目だと、頭の片隅で警鐘は鳴り響いていたけれど、もう自分では止められなかった。 この人が欲しい。 一度きり。互いにそう決めて離れてしまえば、軋んで悲鳴を上げているこの胸の痛みもいつかは消えて忘れられると、思っていたのに。いつの間にか箍がはずれて溢れだしてしまっていたものは、僕をもう戻れない場所まで押し流してしまっていた。 首に腕を絡めて自ら唇を重ねれば、オリヴァーの熱い唇が僕のそれを何度も食む。互いの唾液が混ざり合いくちゅくちゅと淫靡な水音をたてるたび、頭の芯がじんわりと痺れた。 この人が、僕の前からいなくなる。時がたてば、僕の事なんか忘れてしまう。 そんなの耐えられない。 だって、もう僕の中には身体の奥底までこの人の存在が刻みつけられていて一生消えることはないんだから。 「ふっ……ぁ、んむ……」 彼の舌が僕の舌に絡みつくと同時に、伸びてきた手にネクタイを奪われた。シャツの裾から滑り込む彼の手。素肌を撫でられるだけで肌が粟立った。 「っあ、」 ビクリと背筋を震わせた僕の身体をオリヴァーが担ぎ上げる。 「ぁ、オリヴァー、」 「悪いがもう一秒だって待ってやれない。」 軽々と担がれて、抵抗する間もなくベッドルームへ。ベッドに投げ出すように乱暴に身体を降ろされたのは、彼にも余裕がなかったからなんだろう。 毟り取るようにシャツのボタンを外され、顕になった首筋に彼の唇が触れる。 「んっ……ぁ、あ……」 「シー、」 熱い舌が首筋を這い鎖骨を舐る。それだけでもう僕の身体は熱を持ち始めていた。 「オリヴァー……っん、」 シャツのボタンを全て外され、肌蹴られた胸に彼の唇が落ちる。強く肌を吸われてそこに赤い痕が散らされるたび、僕の口からは甘い吐息が漏れた。 でも、足りない。 もっと、もっとこの人が欲しい。 七つも年下。しかも相手は世界のヴァイオリニスト。だけど、それでも、この人は僕を求めてくれた。僕を欲し求めてくれるこの人を、僕も求めている。 「……オリヴァー……っ、はやく、……」 強請るように彼の後頭部に腕を回して引き寄せると、オリヴァーは顔を上げた。その瞳の奥に情欲の火が揺らいでいるのがわかる。僕の瞳にもきっと同じものが存在しているに違いなかった。 僕は無意識の内にはしたなく己の下肢を、オリヴァーのそれに擦り付けてしまっていた。 「っ、シー……あまり煽るな、」 「そんなことしてな、…んぁっ……!」 肩を思いっきりベッドに押し付けられ、オリヴァーの手が乱暴に僕のベルトを外し始める。 前を寛げられて下着越しに触れられただけでたまらず甘い声を上げてしまった。 「んあっ……ああっ……!」 先走りの蜜で濡れた部分を執拗に撫でられると、その快感の強さに腰が揺らめいた。 「シー、」 「は……っぁ、ぁっ……んっ!」 耳元で囁かれる声にすら感じてしまう。 もっと、もっとこの人が欲しい。 僕の全てを奪って欲しい。 「っ、オリヴァー……ぁあっ……!」 下着を引き下ろされて彼の指が直接僕の熱に触れる。根元から先端へ、形をなぞるようにゆっくりとなぞられるともう声を抑えることなんて出来なかった。 「あ……やぁっ……ひ、あっ!」 「シー……」 耳朶を舐る舌の熱さと濡れた音に背筋が震える。そのまま耳の中に舌を入れられれば、頭の中にまで水音が響き渡り、おかしくなりそうだった。 「やぁっ……!んあっ、ああっ……!!」 指先でなぞられ先端を強く擦られればあっさりと限界をむかえる。背中が弓なりに反り一際高く啼いた僕は、オリヴァーの手の中に欲望を爆ぜさせてしまった。 力が抜けてぐったりとベッドに沈み込んだ僕を見下ろすオーシャンブルー。 「……まだだ、もっとシーをくれ、」 熱い吐息と共に吐き出された声は掠れて艶めいていて、たったそれだけで僕はまた体を震わせた。 オリヴァーは僕に見せつけるように手についた白濁を舐め上げる。 ずくりと、達したはずのそこがまた熱を持っていくのがわかった。 オリヴァーは僕に股がったまま自らの服を脱ぎ捨て、ベッド脇に置かれていたチェストに手を伸ばす。見覚えのあるものがオリヴァーの手にあって、僕は思わず息を飲んだ。 避妊具を口に咥え、パッケージを切るのをモノ欲しげに見つめてしまう。 「ぁ、……オ、リヴァー……」 「っ、くそ、」 避妊具と共に取り出したローションで濡らされた指が僕の足を割り開く。そのままその指は窄まりに触れ、ゆっくりと押し入ってきた。 「んぁあ、あっ……!」 いきなりの強い刺激に身体が跳ねる。指を二本に増やされ胎内をかき混ぜられると、もう声を抑えることなんて出来なかった。 「ひっ、……んぁっ、」 苦痛と共に押し寄せる、慣れない圧迫感。みしみしと軋む身体。 でも、それと同時に僕の身体は歓喜に震えていた。 快楽なんて求めてない。 痛くても苦しくても構わない。 ただ、この身体の深い所にもっとこの人を刻み付けたい。 「ふっ、く……っあ!」 さらに指をねじ込まれ、僕の中を咥え込んだ彼の三本の指が何度も擦り上げる。 その度に僕は身体を跳ねさせた。 「シー、……」 「ふ、んあっ……!」 ずるりと引き抜かれた指。その喪失感に思わず切ない声を上げてしまった僕に、オリヴァーが笑う気配がする。そして、彼は僕の膝裏に手をかけるとそのまま大きく足を開かせた。 「力を抜いてろ……」 「あぅ……く、んっ……」 ぐっと押し当てられた熱。指とは比べ物にならない質量に思わず恐怖に身が竦む。でもそれはほんの一瞬のことだけだった。彼の先端部分を受け入れたと思った途端、ずるりと一気に彼の熱の全てが胎内に入り込み、僕はシーツを握りしめて声を上げた。 「んぁっ、ぁあ゛っ……!!」 全身が悲鳴をあげている。 その圧倒的な質量と熱さに身体がバラバラになってしまいそうな錯覚さえ覚える。けれど、それすらも僕の身体は喜んで受け入れていた。 「つらい、か……?」 問いかけてくるオリヴァーの声はどこか苦しげだった。額には汗が滲み、寄せられた眉根も、低く吐き出される吐息もすべてがたまらなく愛おしク感じてしまう。 その欲望をもっと奥まで押し付けて突き上げて欲しいだなんて言ったら、彼はどんな顔をするだろうか。 「っ……大丈夫、だから……」 彼の頬を両手で包み込んで微笑みかければ、オーシャンブルーはまん丸に見開かれる。そしてそのままゆっくりと腰を引いたかと思うと一気に奥へと突き立てられた。 「ひっ!あっああぁあっ!!」 がつんと奥の壁にぶつかってくる感覚。視界が白く染まるほどの衝撃に僕は喉を反らせて悲鳴を上げた。 「シー……っ……」 オリヴァーの荒い呼吸が耳元で繰り返される。引き抜かれ再び奥へと押し込められる熱に、僕の口からは言葉にならない音が漏れ続けた。 「やぁアっ!んぁっ、ああっ……!ふぁ、」 何度も激しく抽挿を繰り返されれば、揺さぶられるたびに自分のものとは思えないような甘さを孕んだ声が上がる。 「は、っぁ、シー、……シー、 ……」 オリヴァーが僕の名を呼びながら腰を打ち付ける。その余裕のなさに、彼もまた僕と同じ快楽に溺れているのがわかった。 もっと、もっとこの人が欲しい。 奥の奥まで全部埋めつくしてほしい。 この身体の全てを使って彼の熱を感じたかった。 「んぁアっ!あ、……んあっ、」 もう何も考えられないほど激しく突き上げられ、僕はただ彼にしがみついて喘ぎ続ける。 「シー、…シーっ、」 「お、り、ヴぁ…っ、」 熱い。 身体が。内で感じるオリヴァーの熱が。 熱い。苦しい。嬉しい。切ない。色んな感情が溶けて混ざって湧き上がってくる。 どうしよう。こんなにも激しい感情、僕は知らない。 でも知ってる。これは、この激情は、この人への愛しさなんだ。 「あ、っ、おり、お、りヴぁ、っ、」 最奥をこじ開けられる衝撃は、強烈な快感に変わって身体中を駆け巡る。 「ん、あっあアぁっ!!」 「くっ、……!」 最奥を一際強く突き上げられ僕は絶頂を迎えた。爪先から脳天まで突き抜けるような快感に全身が痙攣する。同時にオリヴァーもまた僕の胎内に熱を吐き出したのがわかった。 オリヴァーの身体が小さく震えて、僕に欲望の全てを注ぎこむ。 あぁ、どうしよう。 満たされて、苦しい。湧き上がる想いに、息もできない。 「シー、……」 肩で息をしながら僕を見下ろすオーシャンブルーがたまらなく愛おしくて。気がつけば僕の瞳からは涙がこぼれ落ちていた。

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