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第7話 減点

「あ……総一郎……動いて」  触りながらゆっくり腰を動かすと、少しは気持ちいいのか、喘ぎ声が甘くなる。 「あ、そこ……そこっ」 「ここか? 感じるのか?」 「や、あ……ああっ……すご、い……」  体の中に、敏感なポイントを見つけたように、朝比奈がのけぞった。 「イケそうか?」 「そこっ……もっと……ああっ」  手の中の朝比奈のモノがはちきれそうになっている。  絶頂が近いのか、と桜庭はポイントめがけて突くように腰を打ち付けた。 「そ、そういち、ろ……ああっ、イクっ、イクっ……」  いやいや、と頭を左右に振るように朝比奈が乱れ始める。 「陸、気持ちいいか」 「いいっ、すごくいいっ……もっと」  桜庭の額から、汗が落ちる。  激しく締め付ける朝比奈の体の中を貫くように、強く擦ってやる。 「あ……も、イクっ! あああっ」  硬直するようにのけぞって、朝比奈の下半身ががくがくと痙攣した。  桜庭の手の中で弾けるように達したのがわかる。  今まで何度女を抱いても、イカせたという実感がなかった。  どこかで演技をしているのではないかと思っていた。  痙攣するほどの快感を確実に与えたのだ、と桜庭は初めてセックスに満足感を覚えたような気がする。  嘘はつけない男の体。  単純明快なセックス。 「陸、俺もイクぞ」  うんうん、とうなずきながら、朝比奈はすがるように桜庭にしがみついている。  最後は遠慮もなく思い切り突き上げながら、桜庭もまた弾けるように達した。 「総一郎……案外タフだな」  息も絶え絶えで、朝比奈が笑う。 「悪い……最後は見境いなくなった。体、大丈夫か?」 「いいよ、本気の総一郎が見れて嬉しかった」  笑いながらも、朝比奈がふと寂しさをにじませるような表情をするのはなぜだろう。  体は汗やら放ったものやらで、ベタベタだ。  桜庭はシャワーを浴びようと体を起こして、ベッドから降りた。  途端に朝比奈が不機嫌な顔になる。 「せっかく余韻に浸ってるのに、減点」 「何言ってんだ。ベッドが汚れるだろう」 「ヤってすぐシャワーを浴びに行くのは、最低だぞ。愛がない」  口をとがらせて朝比奈が抗議する。  愛がない、というひとことで、桜庭の動きが止まる。  いつもセックスが終われば必ずシャワーを浴びに行くのは桜庭の習慣だ。  そのことで女に文句を言われたことはなかったが、これは愛のない行為だろうか。 「なら、どうすればいい」 「俺は動けないのに、置いていくのかよ」 「連れていけってか」  やれやれ、というように桜庭は朝比奈を横抱きに抱え上げた。  腕力にはちょっと自信がある。 「結構力あるんだな」  朝比奈は目を丸くして、桜庭の首に手を回した。  減点は免れたようだ。  シャワーを浴びて寝室に戻ると、桜庭は脱ぎ捨ててあったシャツを身につけようとして、また朝比奈に文句を言われる。 「帰るつもりかよ」 「明日朝早いんだ。午前中クライアントで会議があるからな」 「最低。減点50点」  わがままを言うな、と桜庭はむっとした顔になる。ここまでつき合ってやっただけでも、十分愛はあるだろう。 「セックスが80点だったとしても、ここで帰ったら残り30点。次に会った時には振られるな、確実に」  朝比奈が皮肉めいた笑みを浮かべる。 「なぜそういう話になる」 「だって、初めてヤった女をベッドに残して帰ったら、それは最低だろう」 「今までそんなことで文句を言われたことはないぞ」 「女は言えないから、俺が代わりに指摘してやってるんだよ。お前の冷たいところ」  冷たいと言われるのは心外だ。  今日の俺は、百歩お前に歩み寄ったぞ、と桜庭は朝比奈をにらみつける。  しかし、優等生の桜庭は最後に減点されるのがなんだか悔しい。  あれだけ体力を使って、30点と言われたのでは身もフタもない。  拗ねたように壁の方を向いて転がっている朝比奈を見ながら、桜庭は深いため息をついてシャツをまた脱ぎ捨てた。  携帯を手に取り、明日の朝起きる時間にアラームをセットする。  朝比奈の隣に体をすべりこませて横になると、驚いたように朝比奈が振り向いた。 「帰らないのかよ。朝早いんだろ」 「減点だと言ったのはお前だろうが」 「指摘してやっただけだろ。帰るのは自由だ。仕事だしな」 「このまま帰ったら、永遠に俺は30点だろうが」  ムキになって言い返す桜庭がなんだか可愛い、と朝比奈はクスリと笑う。 「寝るぞ。俺は5時起きだ」  ムスっとした顔をしながらも、桜庭は狭いベッドの上で左手のやり場に困ったようにな仕草をする。  抱きつくように朝比奈が腕枕を要求すると、桜庭は軽く抱きしめるようにしてこめかみに小さく唇を落とす。  こんなことがさりげなくできる男だったなんて……と朝比奈は顔が熱くなるのを感じた。  絶対にあり得ないと思っていたのに、桜庭が抱いてくれた。  しかもわがままをきいて、抱きしめて眠ってくれる。  これ以上望んじゃいけない。  今日のこれは、千載一遇のチャンスだったのだ。  思い出ができた。  それでいいじゃないか。  満足しろよ。  朝比奈は、燃え始めた自分の心に冷水を浴びせるように言い聞かせる。  すぐに寝息を立て始めた桜庭の、端正な横顔。  眼鏡をはずした顔を見たのも、初めてだ。  セックスをしている最中の、男らしい苦悩を浮かべた顔も胸に焼き付いている。  よほど疲れているのか深い眠りについている桜庭の頬や首筋に、いくつもキスをする。  いい男だよな……総一郎。  知らないほうがよかったかな……

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