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第24話 月島刑事

「いつですか、そのパーティーは」 「おおみそかの晩らしい」  さすがにおおみそかの晩は朝比奈と一緒にいるだろうから、自分はそこへは行けないな、と桜庭は考える。 「僕とキミは高崎に顔を知られているからね。そこへは行かない方がいい。危ないことは専門家にまかせた方がいいんだ」 「はい、わかりました」 「僕の話はだいたいそんなところだ。何か聞きたいことはあるかね?」 「陸の写真がすでにネットなどで流出しているという可能性はないでしょうか」 「うーん……ないとは断定できないが、そんな噂は聞いたことがないな。そんなことがあればパーティーに参加していたゲイの間で噂にのぼるだろう? それにそんなことをすれば悪事を重ねている高崎も足がつく可能性ができる」 「なるほど」  桜庭はほっと胸をなでおろす。  それが一番心配だったからだ。 「ただし写真を取り返す方法はないと思う。複製が何枚あるかもわからないし、データ化していればどれだけバックアップがあるかもわからない」 「高崎は逮捕されると思いますか?」 「どうだろうなあ……現場をおさえない限り難しいだろう。そのへんの話はその刑事に直接聞いてみようと思って今日ここへ呼んでおいたんだけどね。何しろ忙しい男だから……ちょっと電話を入れてみるか」  立石が携帯を取りだした時に、タイミング良く個室のドアが開いた。  洒落たスーツを着込んだ、モデルのように美しい男が、悠然と入ってきて立石に片手をあげて挨拶をする。 「悪いな、遅れた」 「ああ、今ちょうど電話をしてみようと思っていたんだ。こちらは桜庭さんといって、僕の同業者だよ。建築事務所をやっている」 「どうも、初めまして。月島と申します」  桜庭が名刺を出そうとすると、月島はプライベートだから、と辞退した。  桜庭より華奢な男だ。  これが刑事か、と桜庭は少し不安になる。 「あれからちょっと高崎という男のことを調べてみたよ」  月島はかなり親しげに笑みを浮かべて、立石に話し始める。 「ひょっとしたらヤクの方で押さえられるかもな」 「ヤクか。確かにな」  立石も口調を崩して返事を返す。  桜庭は黙って二人の会話を聞いていた。 「桜庭さんといいましたね。キミの恋人は、高崎を訴える意志がありますか」  月島がいきなり桜庭に質問する。 「あれば、ここへ連れてきています。できればそっとしておいてやりたい。傷ついてるんです。10年も前のことなのに」  桜庭はやり場のない怒りを、月島という刑事に訴える。 「そうだね。男だからといって傷つかないわけじゃない。しかも訴えたとしても強姦罪は適用されないし、立証は難しい」  月島が同情的な表情になる。 「まあ、高崎が僕を狙うかどうかはわからないが、うまく誘ってみせるさ」  月島は軽い調子で立石に言う。 「大丈夫なんですか、そんなことをして」  桜庭が思わず月島の心配をしてそう言うと、月島は面白そうに笑った。 「僕は高崎に強姦されたとしてもそんなことでいちいち傷つかない。逆に高崎をホテルに連れ込んで、縛り上げてお仕置きしてやってもいいぐらいだ」  月島と立石は顔を見合わせてニヤっと笑う。 「桜庭さん、月島はね。こんなナリをしているけど、警視庁で格闘技で月島にかなうやつは一人もいないんだよ」 「相手が美しい男だったら負けてあげるけどね」  月島は艶然と桜庭に向かって微笑んだ。  桜庭はあっけにとられている。  ゲイを見慣れない桜庭にとっては、月島はまるで宇宙人だ。  しかしどうやら心配は要らないようだ。 「もし高崎が脅迫してくるようなことがあれば、連絡だけはもらえるかな。しょっぴく材料は多いほどいい」 「わかりました」 「警護が必要になったら、僕が行ってあげよう。キミの恋人はずいぶん可愛いと立石に聞いているからね」  月島が桜庭にウィンクをする。  桜庭は複雑な顔をして、月島に頭を下げた。  立石と月島はそのままもう少し飲むというので、桜庭だけは先に失礼することにする。  話を聞いた時にはどうしたらいいものかと途方に暮れたが、月島と会ってみてまかせておいたら大丈夫だろうという気持ちになっていた。  桜庭が自宅に戻ると、朝比奈は待ちくたびれたのかソファーですやすやと寝ていた。  安らかな寝顔をしばらくながめていると、また高崎に対する怒りがこみあげてくる。  写真を思い出すと、胃が締め付けられるようにむかむかしてくる。    俺には言えなかったはずだな……  朝比奈が可哀想になり、頭をそっとなでると、朝比奈は目をあけてねぼけた顔でぼんやり桜庭を見上げた。  

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