「陸……陸……」 　名前を呼びながら、息を荒げてめちゃくちゃに突き上げる。 　思考を止めて、桜庭がただのオスに豹変する瞬間が朝比奈は好きだ。 　激しく求められているようで、幸せを感じる。 「陸っ……くっ……」 　一瞬天を仰ぐようにして、桜庭はぐっと最後の一突きを突き入れた。 　朝比奈をぎゅっと抱きしめて、絞り出すように奥へ擦りつける。 　どくん、どくんと、桜庭のモノが体の奥で力強く脈打つのを感じながら、朝比奈も快感に包まれる。 　イク時の官能的な桜庭の表情が、朝比奈にはたまらなく愛しく思えた。 　この幸せだけは、どうしても、やっぱり手放せないと思った。 　俺のことほんとに愛してくれてるんだよね、総一郎。 　いつも本気で抱いてくれるもんね。 　きっとこれからも…… 　桜庭は画面の中で、ふう、とため息をつき、息を整えると、少し照れたように画面の中の朝比奈を見た。 　俺だって恥ずかしいんだぞ、というようなバツの悪そうな顔をしている桜庭を見ていると、朝比奈は悩んでいたことなど、どうでもよくなってきた。 　上書きの効果は確かにあったみたいだ。 　これが、現実だ。 　俺は今、現実に幸せだ。 　悪い夢から覚めて、日常に戻っていくような気がする。 　『幽霊の正体見たり枯れ尾花』というのは、まさにこういうことを言うんだろう。 「たいしたことじゃなかったんだ」と朝比奈は口に出して言ってみる。 　心がすっと軽くなる。 「そうだ。人生みんな大なり小なり何かある。俺の方がよっぽどイタイ目に合ってるぞ」 「総一郎は、女に捨てられただけじゃないか」 「俺にとってはあの挫折は実は大問題だった」 　桜庭は顔をしかめる。 「だけど、そのおかげで今お前といるから、結果オーライだ。そうだろ？」 「そうだね……」 　朝比奈はまだ繋がったままの部分にもう一度目をやると、そっと手で触れて確かめてみる。 「いっぱい出した？」 「ああ、今頃中で元気に泳いでるぞ」 　桜庭はまたわざと下品な冗談を言って、腰を動かし、ぐちゅぐちゅと音を立てさせる。 「総一郎の変態」 「上書きできただろう？」 「そんなこと言って、ほんとは俺にこんな恥ずかしいことさせたかっただけだろ！」 　朝比奈はふくれっつらで、桜庭を小突く。 「陸が俺だけのものだとわからせてやっただけだ」 　桜庭はしれっとした顔で言い返す。 　朝比奈は甘えるような口調で、桜庭に聞いてみた。 「総一郎、俺のカラダ好き？　ほんとに汚くないと思う？」 「まだそういうこと言うなら、もう１度上書きするぞ」 　桜庭はちょっと怒った顔になる。 「汚いと思ったことは一度もないし、カラダが好きなんじゃなくて、お前が好きなんだ。そこを間違うな」 　めったに好きという言葉を言ってくれない桜庭が今日は出血大サービスだ、と朝比奈は微笑む。 「俺が好き？」 「何度も言わせるな！」 　桜庭はムスっとしてパソコンのカメラを切ると、朝比奈を抱き上げた。 「俺、やっぱり総一郎が大好き。愛してる」 　甘えるように抱きついても、桜庭はいつものようにちょっと困った顔をするだけだ。 　さっきまで必死で心配してくれていたのに、朝比奈が元気を出した途端、いつもの仏頂面に戻ってしまった。 　でも、それでいい。 　何も変わらないでいてくれる、総一郎がいい。 　俺も過去は忘れる努力をする。 「ベッドへ行くか。風呂へ行くか、どっちだ」 「どっちに行っても、同じなんじゃないの」 　朝比奈がクスクス笑う。 　桜庭はちょっと考えて、風呂場へ向かう。 「どうして風呂なの？」 「中に出したから、きれいにしないとダメだろう？」 　桜庭がニヤっと笑うと、朝比奈は顔をしかめる。 　指をつっこんで精液を掻き出されるのが、朝比奈は嫌いだ。 　何か屈辱的に感じる。 　元気を出させるためにわざと言っているのはわかるのだが、嫌がらせで元気を出させようとするのはいかがなものか。 「どうせまたすぐ中に出すくせに！」 「お前が嫌がるのを、無理矢理押さえつけてするのが燃えるんだ」 　桜庭はニヤニヤしている。 　風呂場では、毎度同じ展開になるのだ。 　桜庭が無理矢理朝比奈を押さえつけて指を突っ込むと、二人とも欲情してきて、せっかく掻き出しても結局またセックスが始まり…… 　ニワトリとタマゴのようなことが続くので、風呂場でセックスをすると果てしない。 「総一郎ってほんと悪趣味。こんなエロ魔神だと思わなかった」 「陸も好きなんじゃないのか、俺に無理矢理ヤられるのが」 　桜庭は見透かしたように、朝比奈の耳元に意地悪く囁く。 　朝比奈は顔を赤らめて、桜庭の首にぎゅっと抱きつき、小さく本音をもらす。 「好き、かもしれない……」 　桜庭はそれみろ、と大きな声をあげて笑った。 　桜庭がそんな風に声をあげて笑うのは初めてだったので、朝比奈もまあいいか、と一緒に笑った。 　きっとこれから先、桜庭は何度でも強引に無理矢理押し倒してくれるんだろう。 　そして嫌な記憶も消えていくんだろう、と思う。