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第11話 優しくほどいて(中編)
どのくらいそうして抱きしめられていただろうか。
次第に結の心は平静を取り戻していった。鼻をすすりながら顔を上げると、直人の長い指が涙の跡を拭い去ってくれた。
「少し落ち着いた?」
優しさに満ちた声に、結は静かに何度も頷いた。
親以外の人の前でこんなに泣いたのは初めてで、急に恥ずかしさが込み上げてくる。
「じゃあ、ここに座って。ゆっくりでいいから、話せそう?」
「……うん」
結から身を離した直人に促され、並んだベットに向かい合って腰を下ろした。
少し冷たくなった手を、直人の手が覆うように握ってくる。
手から伝わってくる温もりに、大丈夫だと言われている気がした。
きっと、悪いようにはならないはず。結は小さく息を吐き、静かに口を開いた。
「俺……、見たんだ。直人さんが出張から帰ってきた日の夕方、女の人とホテルに入っていくところ……。それで俺、直人さんはやっぱり女の人の方がいいんだって思って……。それなら俺が身を引くべきだって。それで……諦めて思い出にって……」
話しながら、女性と肩を並べ歩いていく直人の姿が浮かんで、止まったはずの涙が結の視界を歪ませた。
思い出すだけでこんなに胸が締め付けられるのに、思い出にするなど自分には到底無理だったのだと、結は改めて思い知らされた気がした。
こぼれ落ちそうになる涙を止めようと、瞳を閉じて深呼吸する。
すると、結の手を握っていた直人の手に、きゅっと力が込められた。その力強さに引き戻され、瞳を開く。気遣うように眉を寄せた彼がいた。
「それが……、結の様子がおかしかった理由?」
どちらともつかない直人の表情と言葉に、結の胸は不安に鼓動を早めた。
(やっぱりあの女性は直人さんの……)
最悪の答えが結の頭に浮かんで、思わず手元に視線を落とす。
すると、直人が大きく息を吐く音が聞こえた。
「ごめんね、結。辛い思いをさせたよね……。まさか、結が見ていたなんて。でも、結が考えているようなことは何もないよ。……あの時、一緒にいた女性は伯母だからね」
「やっぱり……。って、……えっ、伯母さん?」
予想外の直人の発言に目を丸くして直人を見返した結は、うっかり大事な部分を聞き違えるところだった。
にわかには信じがたく、長い睫毛の大きな瞳を何度も瞬かせていると、直人が静かに頷いた。
「そう、伯母」
「でっ、でも、伯母さんと、なんでホテルなんかに?」
「仕事でね、急遽会わないといけなくなったんだ」
「仕事? でも、直人さんは出張中だったはずなのに。あんな若い人が伯母さん? 持ってた花束は?」
「うん。ちゃんと説明するから聞いてくれるかな……」
次々と湧き上がってくる疑問に、頭の中は混乱を極めていく。
伯母だと聞いても、ざわざわと騒いだまま不安が消えない胸の前で、結はぎゅっと拳を握りしめた。
「……結、平気?」
固まったまま考えを巡らせていると、落ち着いた声で名前を呼ばれて、結は慌てて直人の言葉に頷いた。
「大丈夫。話……、聞く」
腰掛けているベットに、もう一度深く座りなおして、彼の話を待つ。
シンと静かになった部屋の空気が二人を包んだ。
少しだけ硬い表情で直人を見つめる結を、真っすぐに見つめ返した彼が、その空気を割いてゆっくり話を始めた。
「結が見たあの女性……、伯母はホテルや宿泊施設をいくつか経営しててね。実はうちの会社のクライアントでもあるんだ。あの日は、新規にオープンするホテルの広告プランの最終打ち合わせの日で、本来なら担当するのは俺の同期のはずだったんだ。でも、その同期に急な不幸があってね。同じチーム内でどうしても代わりの人員が確保できないからって、俺に連絡がきたんだ」
「それで、直人さんが代わりに?」
遠慮がちに尋ねる結に、僅かに微笑んだ直人が相槌をうつ。
「そう。だけど、俺が抜けると残りの出張期間を、同行していた上司一人に託すことになるし、基本的に身内は担当しない決まりになっているから渋ったんだけどね。上からの命令には逆らえないのが、サラリーマンの悲しいところだよね。急いで会社に戻って、伯母に会いに向かった。……それを結が偶然目にした。そんなところかな」
「そうだったんだ……」
「予定が変更になった時点で、結にも連絡ができたら良かったんだけど……。何せ急な話だったからねえ」
一通り話を終えた直人が、小さく息を漏らした。
彼の話に頷いた結だったが、心の中は晴れないままだった。彼が嘘をついていないことは分かっている。それなのに――。
「全然納得できないって顔してるね」
まるで心の中を見透かしたような直人の言葉に、結は大きく目を見開いた。
「……っ、それは……!」
「分かってる。仕事だったとはいえ、不安にさせたのは俺が至らなかったせいだ。結が納得いくまで、どんな質問にも答えるよ」
直人が少しだけ眉を下げ、困ったように微笑んだ。
恋人を責めたいわけではないのに。結の胸は僅かに締め付けられた。
だが、摘み取れる不安の芽は今ここで消してしまいたい。
結は思い切って直人に質問を投げかけることにした。
「じゃあ質問……。仕事だったのは分かった。けど、俺から見るとその伯母さん、直人さんと同じくらいの歳に見えたんだ。その……本当に直人さんの伯母さん? ……ごめん、変な質問だよね」
「全然変じゃないよ。結がそう感じたのは当然というか、だぶん結じゃなくても誰もがそう感じることだと思うから」
「俺じゃなくても?」
意外な直人の答えに結が首を傾げると、直人がふっと笑みを漏らした。
「うん。伯母は4人姉妹の末っ子でね。長女の俺の母とは歳が離れているんだ。って言っても伯母は50代なんだけど、現役のモデルな上に美容関連の会社も手がけていてね。外見にはかなり気を遣っている人だからかな。伯母を知らない初見の人なら、ほぼ例外なくその見た目に騙されるってわけ。ちなみに俺は母親似らしいから、その妹の伯母とは姉弟に見られることもあるんだよ。まあ、俺の立場からすると、複雑だけど」
話しながら直人が肩をすくめて見せた。
そう言われてみれば、すらりとした体型や涼し気な目元が似ていた気がする。
「距離感が……、直人さんとの距離が近かったのは? 二人、恋人みたいに見えた……」
「ああ、それはたぶん……。彼女の旦那さんがアメリカ人だからかな。あっちにしばらく住んでたこともあるし。それには俺も、最近やっと慣れてきたところなんだけどね」
「じゃ、じゃあ、直人さんが持ってた大きな花束は? 仕事で花が必要だったの?」
「花束……? ああ、あれは担当が俺に変わったことを知った伯母からの無茶ぶり。ホテルのフロントに飾る花が欲しいって頼まれてね。それで用意したものだよ」
矢継ぎ早に直人を質問攻めにして、全てにすらすらと答える彼を前に、結は唇を固くむすんだまま小さく頷いた。
「結? どうかな、少しは納得できた?」
優しい瞳が結の顔を覗いてくる。
聞きたかったことはすべて聞けたはずだ。けれど、心の奥底に沈んでいた別の思いが湧き上がってくるのを感じて、結は戸惑いながらもかぶりを横に振った。
「ごめんなさい。直人さんの話、信じてないわけじゃないんだ。でも……、あと一つだけ質問してもいい?」
遠慮がちに話す結に、直人は「もちろん」と優しく受け入れてくれた。
「直人さんは……その、俺が恋人で、ちゃんと幸せ?」
「幸せだよ。そんなの、幸せに決まってる」
「そっか、よかった……」
直人の答えにほっと胸を撫でおろした結に、今度は直人が首を傾けた。
「ねえ、結。何がそんなに結を不安にさせてるのか、教えてくれない?」
核心に迫る直人の問いに、結の心臓は大きく脈打った。真剣な眼差しが、結の言葉を待っている。結はぎゅっと手を握りしめた。
「それは……。直人さんは、本当に俺でいいのかなって思えて……」
結の放った言葉に、直人がその形の良い眉を僅かに寄せるのがわかった。
だが、一度口火を切ってしまったものは止められなかった。
「……あの日、直人さんが俺の知らない女の人と一緒にいるのを見て、やっぱり俺じゃダメなんだって思った。俺は年下で学生で、直人さんにしてあげられることだって少ない。だから、俺よりもふさわしい人は他にいるんじゃないかって……。伯母さんだったって分かっても、その考えが消えてくれないんだ。直人さんのこと大好きなのに……、胸が苦しくて息が詰まりそうになるんだ……」
「結……」
「ごめんなさい。俺、弱すぎだよね……。こうやって直人さんのこと困らせてる……どうしようもないヤツ……」
何か言いかけた直人の言葉を遮るようにして、結は言葉を重ねた。
話しを終えて、胸の痛みを誤魔化すように瞳を伏せる。
「結……、俺のことしっかり見て」
すると、結の話を静かに聞いていた直人が、結の名前を呼んだ。いつもより低く感じる声に、僅かに肩を震わせる。
さすがの彼も、呆れてしまったのだろうか。
結はおずおずと顔を上げ、直人の方に視線を戻した。
「……っ」
だが、想像していたものとは違い、結の視界にとらえられたのは、柔らかで優しい眼差しだった。その瞳に見つめられて、結の胸は自然と鼓動を早くする。
「結。俺は結からたくさん幸せをもらってる。俺は、俺が選んだ恋人を、一度もダメなんて思ったことはないよ。今までもこれからも、俺には結だけ。年下とか学生とかも関係ない。俺はただ、結という一人の人間が好きなんだ。だからそんな風に、苦しまないで。俺を信じてほしい」
「直人さん……っ」
「でも……、結がそんなに弱くなってしまうくらい、俺のことを思ってくれてるって自惚れてもいいのかな?」
直人がふわりと、涼やかな目元をほころばせた。彼の優しくも潔い言葉に、心が溶けていくような気がした。
こうしていつも、結自身も自覚できていないような、けれど本当に望んでいる言葉をくれるのが直人なのだと、結は思い知る。
「……ずるい」
揺れる心をなだめ、ぽつりと呟いた結に、彼が優しく目を細めた。いつの間にか滲んでいた涙を、直人の指が拭ってくれる。
「結は泣き虫だなあ。さっきも沢山泣いたのに、どうしたら泣き止むんだろうね」
結の頬に触れながら、直人が困ったように言いながらクスクスと微笑んだ。その声も仕草も温かく、結の涙腺をさらに緩めてしまう。
「――てほしい……っ」
「ん? ごめん、もう1回」
潤ませた声で話すと、直人が耳を近づけてくる。
「シてほしい……、俺と最後まで……っ、そしたら泣き止むから」
濡れた瞳で直人を見つめ、ほとんどお願いに近い勢いで言って、結は頬を染めた。
「結……」
涼やかな目元を、一瞬大きく見開いた彼が口をつぐむ。そのまま黙ってしまった直人を前に、返事を待てず結は自分の浴衣の帯に手を掛けた。
「……っ、待って結。最後までって、それがどういうことか分かってる?」
帯を解こうとする結の手を遮って、直人が口調を強くした。
「ちゃんと分かってるよ。俺はもうずっと前から、直人さんに俺のこと、全部あげる覚悟はできてるんだ。分かってないのは直人さんのほうだよ! 直人さんは俺とシたくないの?」
結はきっぱりとそう言って、直人を見上げる目に力を込めた。視線の先の恋人が悩ましげにその形の良い眉を寄せる。
「結……、そうじゃない。俺は結を大切にしたいんだ。結以外の誰かを特別に思うことは無いし、結しかいらない。だから何よりも大事にして甘やかしていたいんだ。なのに、その場の雰囲気に流されて結のことを抱いてしまったら、負担をかけるんじゃないかと心配になる。結は気持ちがいいことに弱いから、なおさらね。それにそういうことはきちんと段階を踏んでからともね。俺の考えはこの通り。わかってくれる?」
直人がゆっくりと言葉を紡ぐ。彼の口調には、少しの揺らぎも感じられなかった。
恋人の真意を知って、胸の中がほわりと暖かくなる。
「……うん、わかる。理解する。前から……、確信は持ててなかったけど、そうじゃないかなって思ってたから。きっと俺のことを大切にしてくれてるからだろうなって。だから直人さんの気持ち、すごく嬉しい。でも……、今回は引けない。俺のこと全部、直人さんのものにしてほしいんだ……。そしたら俺、今より強くなれる。もう不安になったりしない。だめ……かな?」
結は手を伸ばし、直人の固く握られた手にそっと触れた。その手を、彼がしっかりと握り返してくれる。
「どうしても? 結の考えは変わらない?」
確かめるように聞かれて勢い良く頷くと、長い息を吐いた直人が自嘲的な笑みを浮かべた。
「結には敵わないなあ」
「直人さん? それってどういう……?」
「大切に、大切に。守ってあげないとって思ってたんだけどね。こんなに強い子だったなんて。結のためだと思っていたことが、逆に結を悩ませて苦しめていたんだね……」
肩を落とす恋人に、握られたままの手が熱い。
「直人さん……」
「結の言う通り、わかってなかったのは俺の方。ごめんね」
「そんな……、謝らないで。俺、きっと直人さんが思ってる以上に、直人さんのことが好きなんだよ。だから、直人さんからされることなら、俺どんなことでもっ……」
言い切る前に、伸びてきた直人の指に唇を制された。瞳を大きく見開いた結の前で、直人が静かに首を横に振る。
「それはだめだ。俺が自分を許せなくなる。前にも言ったけど、結に痛い思いや辛い思いをさせるつもりはないからね」
「……っ、やっぱり、してくれないんだ……」
唇に置かれたままの直人の指先から逃れるように目を伏せた。期待した気持ちが、みるみるうちに沈んでいく。
「結、こっちを向いて……」
直人の柔らかな声と共に、膝の上に置いた手へと彼の手が差し伸べられた。大好きな恋人の大きな手。結はそっと自分の手を重ね、言われた通り彼を見た。
切れ長で涼しげな瞳が、優しく結をとらえて離さない。
すると、結の手を持ち上げた直人の凛々しく閉じられた唇が、その甲へと丁寧に押し当てられた。
ゆっくりと離れていった唇を見送ると、ふわりとほどけた唇の隙間から白い歯が覗く。
「えっと……」
頬を赤く染めて、瞳を瞬かせている結の顔を、直人の愛情に満ちた瞳が見つめる。
「結……。俺も男として、結の恋人として覚悟を決めるよ」
「それって……」
思わず言葉に詰まっていると、まだしっとりとした感触が残った部分を直人の指が撫で、指を絡めてつながれた。
と、次の瞬間。ぐっと力強く引かれたかと思うと、気付いた時にはベッドに押し倒されていた。
「……っ」
一瞬の出来事にあっけにとられていると、はらりと浴衣の生地が太股のあたりを滑る感覚に、結はその身を震わせた。
素肌が冷房で冷えた部屋の空気にさらされて、思わず両脚をすり寄せる。
押し倒された拍子に浴衣がはだけてしまったのかと、恥ずかしくなって太股のあたりの布を手繰り寄せようと手を伸ばした。だが、その先に触れたのは覚えのある自身の肌の感触だった。急に妙な心もとなさを感じる。
「えっと……結、これは……」
その理由を確認しようと体を起こしかけた結の視界に、瞠目した直人の表情が飛び込んできた。その視線は結の下腹部へと向けられている。
心ならずも、結もその後を追って直人の視線の先にあるものへと視線を向ける。
「……っ!」
すぐに状況を理解した結は、みるみるうちに羞恥に全身を染めた。なんとかそこを隠そうとあらゆる布を掴もうとするが、結の手を直人が遮る。
「やっ、見ちゃ……やだ」
浴衣がはだけているのだろうと思っていたのは、結の思い違いだった。
自ら手を掛け、ほどけかけていたらしい帯はすっかりどこかへ消えて、下腹部から足先まで、ほとんど曝 け出した姿になっていたのだ。
これから起こるだろう展開を想像すれば、そんな格好をしていても不自然ではないのだから、それだけならまだよかったのだけれど……。
結は心もとなく感じた理由の正体を、すっかり失念していた。
二人の視線の先。
結の控え目な臍から少し下に降りた辺りで、細やかなビジューがキラキラと煌めいている。
「綺麗だね」
耳に響く柔らかな低音に、小さく肩が跳ねた。
口元に笑みを浮かべて視線を戻した直人は、恥ずかしさに全身を赤く染めている結を前に、なぜだか嬉しそうだ。
「これは……っ、お守りというか、もらったもので……。そもそも履くつもりは無くて、そのっ……ごめんなさいっ」
思わず謝って、詰めの甘い間抜けな自分を呪う。
風呂の準備していた折、戻ってきた直人に気付かれまいと急いで浴室に駆け込んだのだが、本来履くつもりだった下着ではなく、秘密兵器だと貰ったセクシーランジェリーの方を持ち込んでいた。
風呂から上がって、その事実に気付いたときは、思わず叫んでしまいそうになるほどの衝撃を受けた。
とりあえず、一旦それを身に着けて、タイミングを見計らって着替えるつもりでいたのだが、見事にその機会を逃してしまったのだった。
後悔は先に立たないというのは本当だった。
結は直人の視線に耐えられなくなって、熱くなった顔を両手で覆った。
「なんで謝るの? こんなに似合ってるのに」
遮った視界の向こうから、直人がふっと微笑む気配を感じて、結は必死でかぶりを振った。
「似合ってなんかっ、うう……、恥ずかしい……」
「まあ、なんとなく察しはついたけど……。それよりも、顔、隠さないで見せて」
更に笑みを深める気配がして、直人によって顔を覆っている手をあっけなく剝がされてしまった。視界が開けて、結を見おろす彼の瞳と視線がぶつかる。
「……っ」
スタンドライトの光を受けて、少しだけ影を落とした直人の顔は、息を呑むほど端正だ。蕩けてしまいそうなほど甘い眼差しを注がれて、結の瞳もとろりと熱く潤んでしまう。
「ことごとく、結には敵わないなあ」
ため息交じりに、けれどどこか満足気に言った彼の指に、額にかかった髪を優しく払いのけられた。
くすぐったさに身をすくめていると、すっと降りて行った指先が、結の華奢な腰でリボンを形作っている紐に掛かった。
「ねぇ結。この紐を解く権利を俺にくれる?」
つい先ほどの甘い眼差しとは打って変わって、真剣な視線が向けられた。
その瞳の奥に燃える炎のような熱量を感じて、結の心臓は脈を打つスピードを早める。
「返事は?」
見つめられたまま艶めいた声に催促されて、ゆっくりと頷く。
「うん」
恥ずかしいけれど、嬉しい。
信頼をたたえた瞳で直人を見つめると、ふわりと微笑んだ彼の顔が近づいて、結の唇にしっとりと優しいキスが落とされた。
まるで初めて彼からキスをもらった時のような、触れるだけの柔らかな感触に、たまらなく胸が熱くなる。
「よかった、大切にする。もし怖くなったり、嫌だと思ったらすぐに教えて」
「うん……」
結が再び頷くと、またすぐに直人の唇が重なった。
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