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第13話 優しくほどいて(後編②)

「直人さ……んっ、もう指、やぁっ……」  うごめく内壁に指の根元まで深く押し入れられて、足先まで渡る痺れにびくびくと肌が震える。  ぐちゅぐちゅという耳を疑いたくなるような(みだ)りがわしい音に頬を染めて、ほとんど泣き声に近い甘いお願いに、直人が満足げに深く息をついた。 「……ん。そろそろ、よさそうだね」  柔らかに呟いた彼が、結の濡れた頬に労わるようなキスを落としながら、秘園に挿し入れていた指をゆっくりと引き抜いた。内壁を撫でていく僅かな快感にも、敏感に高められた結は腰を揺らめかせてしまう。    着崩れた浴衣を脱ぎ捨てて、逞しい体躯をあらわにした恋人を濡れた瞳で見つめると、熱っぽい眼差しが近づいて、とろりと深いキスが降ってきた。  大好きな恋人のキスに体中が悦び、甘い吐息が漏れる。 「ふあ……ぁ……」   「結……。今から俺の……挿れるよ。怖くない?」  唇を離し、ふわりと笑みを浮かべた彼が、ひどく優しい声で問う。  怖くないかと聞かれて、そうではないと言えば嘘になる。だが、小さな不安よりも自分を大切に思ってくれている直人と、早くひとつになりたいと思う気持ちの方が大きかった。    ゆっくりとかぶりを振って、眩暈がしそうなほどドキドキする胸をなだめながら、覗き込んでくる彼の首に腕を伸ばした。 「怖くなんかないよ。もうずっと直人さんとこうなりたいって思ってたんだもん。やっと願いが叶って嬉しい……」  小さく震える声で、心からの言葉を懸命に恋人の耳元へ届ける。  それだけでは伝えきれない気がして、首に廻した腕にぎゅっと力を込めると、その何倍もの熱量と力強さで抱きしめ返された。 「ったく……可愛すぎて凶悪。大切にしたいのに……、そんなこと言ったら俺の理性が持つか心配だよ」   「……っ、だって本当のことだから……」   「結のこと、泣かせたくないんだけど」   「平気。泣いたとしても……、たぶんそれは嬉し泣きだから。だから、いっぱい……シてほしい……」  ねだるように言って、朱に染まった頬を直人の肩口にすり寄せる。顔をうずめた広い肩が一瞬強張るのを感じて、そっと体を離した彼が熱っぽく大きな息をついた。 「そんなに煽るようなこと言って、悪い子だね」 「煽ってなんか……っ」  直人の綺麗な切れ長の目元に、甘い咎めの色が浮かんだ。  真っすぐな眼差しに迫られて、吸い寄せられるようにキスを交わすと、濡れた唇の彼が微笑む。 「知ってる。そんな風に無自覚なところも可愛い。俺の結……。たくさん、気持ちよくなろうね」  結が少しでも辛くならないようにと、腰の下にふかふかとしたクッションを入れられた。お尻の位置が高くなって、自身の全てを直人に差し出すような格好に、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうな気持ちでいっぱいになる。  けれど、自分のためだと言われたら従うしかない。 「ゆっくり入るから、ちゃんと息をしてて」  柔らかく低い声で色っぽく囁かれて、その嬌艶とした響きに睫毛を震わせてしまう。  こくこくと小さく頷くと、額に優しく唇が寄せられた。  射止めるような、愛おしげな眼差しを据えた直人が、秘園の入り口に剛直をヒタリとあてがう。  ぬるりと触れただけなのに、恋人の指によってとろりとほころんだ秘園は、それを待っていたと言うように、きゅうっと収縮し迎え入れようと蠢いてしまう。 「結のここ……、すごく、欲しそうにしてくれてる」  直人が嬉しそうに、鼻先や頬にキスを落としてくる。  その合間にも、熱いもので入り口をぬるぬるとなぞられて、焦らすような感覚に甘い息が漏れた。 「んっ、やっ、恥ずかし……」  潤んだ瞳で恋人を見つめる結を、艶然とした光を宿した眼差しが見おろし、僅かに揺らめいた。  同時に小さな入り口に、ぐうっと圧力がかかる。  指の時とは比べ物にならないほどの硬さと存在感に思わず体を強張らせると、慰めるような優しいキスが施された。しっとりと舌を絡められ、慈しむように口腔内を蹂躙される。  深いキスに、ふっと体から力が抜けたところで、唇を離した彼がきらめく糸を舐めとって色っぽく微笑んだ。 「好きだよ、結。大事にするから、全部俺に任せて」  ほとんど吐息に近い囁きが耳元をかすめていく。  そんな風に言われたら、嬉しくてたまらない。信頼の視線を向けて、キスの余韻ですっかり溶けきった思考のまま恋人の熱を受け入れることだけを願う。    一度離れた圧力が、今度は少し強さを変えて押し当てられた。  くちゅりと濡れた音を立てて、彼の熱塊が割り入ってくる。 (すごく……熱い)  秘園の内側に感じたことのない圧迫感と熱を感じて、鼓動が早くなった。  直人が長い時間をかけて丁寧にほぐしてくれたおかげで、驚くほど痛みは感じない。ただ、苦しいほどの圧迫感に、ぽろぽろと生理的な涙が零れた。 「んっ、は……あ……」  言われた通り、息を止めないよう努める。  ゆっくり吸っては吐いてを繰り返す結に合わせて、少しずつ馴染ませるように熱塊を抜き差ししながら、直人がキスの雨を降らせる。  濡れた目元の雫を舐め、染まった頬に、耳朶に首筋に。  まるであやすようなキスの愛撫が施される度に、ふわふわと体は軽くなり恋人の熱を受け入れていく。    体内に感じる直人の剛直は、その様子からかなり限界に近い熱を抱えているはず。普通なら、早く最後まで貫いてしまいたいところだろう。  それにもかかわらず、ゆっくりと労わるように進めてくれているのは、結のことを大切にしてくれているからだ。  体だけでなく心まで満たされていく喜びに、きゅうっと胸が締め付けられる。 「上手にのみこめてる。もう少し、はいるね」  大きな彼の手が髪を梳き、頭を撫でてくれる。  心地良くて安心できる大好きな感触に、ほうっとひと息つくと、細い腰をもう片方の手でぐっと掴まれた。    下腹部に感じる圧迫感は大きくなっていくが、長大なものでじわじわと拓かれていく感覚は、同時に知らなかった悦楽を結に与え続ける。 「あっ……、ふか……い」  相変わらずゆっくりと腰を進める直人の熱が、指では触れられなかった奥を嬲って、痺れるような愉悦が足先まで渡った。    優しい恋人の優しい征服。  込み上げてくる快感に熱い涙を滲ませていると、柔らかな唇に拭われた。  結の尻の丸みに沿うように、ぴったりと密着した恋人の肌の温もりが、自分に起きている甘い現実を知らしめる。 「……結のなかだ……。苦しい?」    感じ入ったように吐息交じりの深い声を響かせて、恋人が囁く。覗いてくる眼差しもひどく優しく、嘆美な色を含んで見える。 「う……少しだけ。でも……ん、平気」  慣れない圧迫感に、声を出すと下腹の重みが体に響いて、思わず囁き声になってしまう。  紅潮していつの間にかしっとりと汗ばんでいた頬に、直人がキスを寄せた。  濡れそぼった目元をそっと指先で拭い、また髪をなでてくれて、苦しかった体内がふわりと楽になっていく。    言葉で表現しなくても、気持ちを伝えてくれているような視線と仕草。  ひとつひとつが結の心を甘やかに溶かし、少しだけ締め付けてくる切なさに、込み上げてきた思いが不意に口から零れた。 「……なおとさん」   「ん?」   「すき……。好きだよ」  どくん、と直人の熱が大きくなかで脈打つ。  思いがけず指先まで痺れが渡って、結は息を詰めた。同時に恋人も僅かに息を詰め、はあっと静かに吐き出した。 「嬉しいけど、この状況でそれは反則だよ、結」   「ど……どうして?」  悩まし気に眉を寄せた彼に、結は瞳を大きく見開いた。 「俺のこと、煽って試してるのかなって」   「そんな……っ」   「そんなつもりないんだよね。でも、俺のをしっかりと受け入れて、とろとろになってる顔で言われるとねえ……。天然無自覚の小悪魔な恋人に翻弄されてる気分だな」  色っぽい笑みを浮かべた彼がいたずら言って、ついばむようなキスを繰り返す。  冗談っぽく聞こえるけれど、なんだかすごいことを言われた気がする。 「う……、ごめんなさい?」  反応に困り果てていると、ずっと熱いままの頬にもキスが落とされた。 「うそ。どんな結も全部好きだよ。ねえ、結。馴染むまで動かないでいるから、結のいいタイミングを教えて」   「タイミング?」   「そう。俺ので結のなかをたくさん……、シてほしくなったら教えて」  ふっ、と微笑む気配がして優しい低い声が耳のそばで響いた。かぁっと体温が上がる。  恥ずかしさに頷くだけの返事をした結の体を、恋人の大きな手が優しく撫でていく。  丁寧にじっくりと触れる温もりは、どれだけ大切に思っているのかを伝えてくるようで、心まで気持ちよくなってしまう。    うっとりとした気分で恋人の手の感触に浸っていると、一度達したあと、触れられていなかった中心が彼の手にやんわりと包まれた。  初めて直人の熱を受け入れた衝撃で少し力を無くしていた場所は、ほどなく敏感に張り詰めてしまう。  胸の小さな突起を滑らかな舌が愛撫して、腹の奥に広がる疼きに、どうしようもなく息が乱れた。  ちゅっ、と吸われた首筋の脈が速くなり、じっとしていられないような気持ちになる。 「……いて」   「なに?」  嬉しさと苦しさと恥ずかしさで、声がかすれてしまう。優しく聞き返され、どうしようもなくなって直人の首に縋った。 「動いて……ほし……」  小さくねだる声に、首元で僅かに熱い息を吐いた彼が「ん、了解」と、ゆっくりと上体を起こした。  涼し気な造りの目元とは対照的に、灼けつく色を孕んだ眼差しが結を捉える。  細い腰を大きな両手が掴んで、確かめるようにぐるりと腰が押し入れられた。   「うわっ、あっ……やっ」  くちゅ、と濡れた音がたって反射的に背がしなった。同時に、彼の剛直を逃さないとでも言うように、内壁が蠢動する。 「話してる間に、しっかり柔らかくなっちゃったね」  腰はぴったりと合わせたまま奥だけを揺するように突かれて、ざわざわとした甘美な痺れが全身に渡った。  下腹部の圧迫感はまだ感じるけれど、繋がっていることを教えられているようで嬉しい。 「ん、やぁっ……だめっ……」   「だめじゃないでしょう? かわいい結。俺のに……っ、絡みついてきてくれてる」  思わず飛び出た否定の言葉は、柔らかに微笑んだ彼にはそう聞こえなかったらしい。  吐息交じりに囁く恋人の声がわずかに弾んで聞こえるのは、少しずつ抜き差しされる距離が伸びていっているからだ。  とは言っても、さざ波のように緩やかな動きなのだが。  それでも敏感な体は余すことなく、快感を拾ってしまう。   「あっ、んんっ、そこ……っ」  内壁の弱い場所を熱塊の太い部分にこすりたてられて、たまらず声が漏れた。  直人が動くたびに、疼くような、欲を放ってしまいたいような、えもいわれぬ感覚に腰が揺らめく。 「ん……?」  大きく息を乱す結を、その形の良い唇を色っぽく舐めた恋人が首を傾げながら見おろす。  優しい表情はきっと全てを察しているはずなのに、送り込まれる腰の動きが止まる様子はない。  それどころか、さらに的確に内壁の弱い場所を狙い撃ちにされてしまう。 「そこ、あっ……やあっ」   「うん。結の『良いとこ』、ちゃんと覚えてたね。えらい」  うっとりとした彼の声が鼓膜をくすぐる。  じわじわとした甘い痺れに追い詰められて、視界が涙に歪んだ。  早く熱を放ってしまいたい。  けれど、咄嗟に自身の中心に伸ばした手は、あっさりと直人に遮られた。指を恋人つなぎに絡められ、ベットに縫い付けられてしまう。 「やっ、どうしてっ……」  思わぬ恋人の束縛に、達することを許されなかった体が僅かに震えた。  ほとんど泣き顔で訴えているのに、動じないどころか注がれる眼差しにも、悪びれた様子はない。いつもの優しい彼そのものだ。  困惑する結に、彼の涼しげな瞳が微笑みでたゆんだ。 「意地悪でしてるわけじゃないから、そんな顔しないで。前でイきすぎると、あとが辛くなるっていうから……」  ぐしゅ、と小さく鼻をすする結の濡れた目元に直人がキスを降らせる。  そこから頬、耳朶へと移って「だから、結。うしろだけでイってみようか?」と、不穏な囁きを残して離れていった。 「……そんなっ、今日が初めてなのに無理だよ」  目を見開いた結の手の拘束を解いた恋人が、張り詰めたままの中心を指でたどる。 「でもね、結のここ、俺に突かれるたびにたくさん溢してたんだよ。ほら、見て」  言われるままに顔を上げて見えた先には、先端から漏れた蜜で濡れ、下腹部には淫らな水溜りを作ってしまっている自身の熱があった。  はっとして息を呑む間にも、分からせるように腰を送られて、結の中心はとろりと色香を増してしまう。 「……っ、あっ」   「俺ので気持ちよくなってくれてる証拠だよ」  恥ずかしさで涙が滲んで、言葉にならない。  助けを求めるつもりで見つめた恋人は、満足気な表情を浮かべている。そんな顔をされたら、否定することなんてできない。  きゅっと瞳を閉じて降参すると、すんなりとした腿を押し上げられ、その内側に熱い唇が押し当てられた。 「んやっ、直人さん……っ」  柔らかに舌が這って、ぞくぞくと肌を震わせているうちに、追いかけるような抽挿で弱い所を責め立ててくる。  リズムよく揺すられて、焦らされていた中心はあっという間に昇りつめ、腹の奥には熱い疼きが溜まっていく。  呼吸を荒げた結の口からは、涙声に近い嬌声が漏れた。 「んっ、ああっ、そこ……ばっかりっ……や……」   「ん……、たくさんこすってあげるから……、イっていいよ」  色っぽい声で低く呟いた直人が、ふっと微笑む気配がしたが、涙でゆらめく視界は彼の表情をはっきりと映してくれない。  けれど、彼のことだ。きっと優しい顔をしている気がした。  柔らかな口調と触れる温かな手からは、大切に抱いてくれているのが感じ取れて、安心感を与えてくれる。  きゅうっと胸を締め付ける甘い痛みと体内に与え続けられる快感に高められ、穿たれながら得る初めての絶頂感に、結はとうとう身をゆだねた。 「あっ……、ああぁ……ッ」    せつない声と共に、全身に愉悦の痺れが渡る。熟れきった先端からは熱い蜜が迸り、びくびくと腰が波打った。  熱を出し切るように震える体で大きく息を喘がせていると、奥で腰を止めた直人がふわりと覆いかぶさってきた。  火照った肌に、汗ばんで少し冷えた彼の体が触れて気持ちいい。 「上手にイけたね。平気?」  優しく気遣う声に、とろりと溶けてしまいそうな意識で頷くと、涙で濡れた目元を優しい指先で拭われた。  心地良い手の感触に、すり、と頬を寄せて、うっとりと見つめた先の恋人が結の唇にキスを落とす。  感じ入ったようにしっとりと吸われて、互いの熱い吐息が混ざりあう。  湿った音をたててキスが深くなっていくにつれて、直人の剛直を受け止めたままの中が甘く蠢くのを感じる。  今しがた達したばかりなのに、まるで彼の熱がもっと欲しいと言っているような動きに、結は困惑した。 「……んっ、まって直人さん……、なんか……っ」   「ん? 結はキスが好きだもんね。キスだけでイきそう?」   「ちが……、そうじゃなくて俺……まだっ」  慣れない感覚をどう伝えればいいのか分からず、もどかしさにきゅっと唇を噛んだ。  それだけではなく、僅かな時間で自分の体が変わってしまったような気がして、ざわざわと胸が騒いだ。 「ああ、結。だめだよ。傷になるといけないから、そんなに噛まないで」   「直人さん、なんか変っ、体が……」   「うん、わかってる。結があんまり可愛いから、ちょっと意地悪した。ごめん」   「……っ、ひどい……。直人さんのばか……」  潤んだ瞳で睨みを利かせると、「ごめん」ともう一度言った直人が、赤くなった唇を指で撫でた。  追いかけるようにして、お詫びのキスが甘く施される。 「結の中、俺のでもっと、シてほしいんでしょう?」   「う……ん」  注がれる低音が鼓膜に響いて、それにすらぞくぞくと体が反応してしまう。恋人も言う通り、自分の体が敏感にできていることは自覚しているが、自身でもここまでとは思わなかった。  許容範囲を超えた艶めかしい疼きを前に、結は全身を朱に染めてこくこくと小さく頷くことしかできない。 「うん、たくさんしようね」  艶然とした色を浮かべ嬉しそうに言った直人が、ゆっくりと腰を引いてゆく。  は、と僅かに息を吐いた彼の熱塊は、その硬度も熱も増して熟れきった内壁をみっちりと満たしていた。  長大なものをずるると引き出され、絡めとられていくような感覚に、思わず息を詰めてしまう。   (気持ちいい……)  少し動かれただけで濡れた音をたててしまう場所を、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜて彼の熱で埋め尽くされたい。  湧いてきた淫らな感情を甘い息と一緒に吐き出すと、結の表情を見守っていた恋人が滑らかに腰を送り入れてきた。  ゆっくりとだが、結の弱い場所もかすめて奥まで穿たれると、吐息はあっという間に乱れた。 「……っん、は、あぁ……ん」  内壁をこすりあげられて、たまらず濡れた声がこぼれてしまう。恥ずかしいのに、我慢できない。 「声かわいい……。もっと聞かせて」  抜き差しを続ける彼が、喘ぎに反らした顎先に優しくキスを落とし催促する。  ゆったりとしていた動きは、結の声が甘さを増すにつれて速まっていく。けれど、丁寧にほぐされ大切に仕込まれた体は、もう苦しさは感じない。  恋人の形にぴったりと添うように蠢き、ただ快楽を受け取っていくだけだ。    直人の熱に溶かされ、とろとろになった内側を剛直が蹂躙して、与えられる全ての快感に溺れそうになる。  肌にかかる息も、注がれる恋人の熱っぽい視線も、触れる大きな手の感触も、全部気持ちいい。  繋がった場所から体中に愉悦の波が渡って、抑えきれないほどの幸せな嬌声が漏れた。    力強く奥まで突かれて、熱い疼きが下腹に溜まる。  いつの間にかまた張り詰めていた中心からは、揺さぶられるたびに先端から蜜が漏れた。  うねる波にのみこまれるように快楽が襲ってきて、怖いほどに感じてしまう。 「あっ、やあっ、なおと……さんっ」   「ん……? どうした?」   「へんっ……、変になっちゃう……んっ」   「イきそうになってるの?」  こくんと頷くと、中の恋人が大きく脈打つのが分かった。 「あっ……ん、なんで今……大きくっ」   「なんでって、結がこんなに可愛く蕩けてるんだから、なるでしょう? ……お尻で気持ちよくなってくれてるのも嬉しいしね」   「そんなのっ……、言わない……でっ」  羞恥と愉悦の涙に濡れた瞳の先に見える直人が、ひどく優しく微笑む。  はぁ、と色っぽく息を吐いて、結を包み込むように体勢を整えた恋人が、ぐうっと奥まで腰を進めた。  熱塊に貫かれたままの場所の位置が高くなって、深い挿入にビクン、と震えた脚から煌めくビジューの下着が滑り落ちていく。   「何も身に着けてない結も綺麗だ。甘やかしてもっと蕩けさせて、食べてしまいたいくらい」   「なに、それ……。も……う食べられてる……し」  突然の捕食宣言に、すでに蕩けきった思考で小さく呟くと、立ち昇る熱情を孕んだような瞳に見据えられた。  額には汗が滲んでいて少しだけ余裕のない様子の恋人が、とびきり艶めかしく、どこか獰猛さを含ませた低音で囁く。 「……じゃあ、もっとちょうだい」   「えっ、んぁ……、あぁあ……っ」  送り込まれる腰の速さが増しても、これまでずっと優しかった直人の動きが、一気に遠慮のない激しいものになった。    息をつく暇も与えられないほど穿たれ、最奥まで征服される。  そのたびに互いの肌がぶつかり合う音が響いて、耳からも犯されていくような感覚をおぼえた。    中で感じることを今しがた知ったばかりの体には怖いほどの激しさなのに、貪る勢いで求めてくれる彼が愛しくて、体の奥底から歓びが湧き上がる。  打ちつけるように突き上げられるたび、甘い嬌声が零れて、目の前にチカチカと星屑が舞う。 「あっ、なおとさ……っん、なお……っ、あぁん」   「うん。気持ちいいね……」  抗えないほどの快楽を刻まれ、たまらなくなって恋人の名前を呼ぶと、感じ入ったように言った彼がねっとりとしたキスを落とした。  なめらかで熱くて、大好きな彼の唇の感触。  口内を蹂躙されながら余すことなく攻めたてられて、これ以上は無いと思うくらいの愉楽を与えられる。 「んぁっ、もう……っ、や……ぁあ」  熱い息を吐いて彼が唇を離すと、切なく悲鳴にも似た声が漏れた。  思わず逃げそうになった細い腰を恋人の大きな手が引き戻し、すぐさま、ひときわ深く穿たれてしまう。 「愛してる、結……っ、イって……」  耳元に唇を寄せた直人が、荒い呼吸を含んだ低音を囁き込む。  ゾクゾクと全身の皮膚が粟立って、彼と自分の境目も分からないほどに蕩けきった体は、まぶしいほど激しく甘美な絶頂の波にのみこまれた。   「ひぁあっ、やっ……、アァー……ッ」  触れられてもいない中心から、熱い蜜が溢れる。  同時に内壁が痙攣したように収縮し、たっぷりと埋め込まれた熱塊に絡みつき、せつないほどに締めつけた。    くっ、とわずかに喉を鳴らし、何度か深く腰を挿し入れた直人が、逞しい体をこわばらせる。最奥を突かれたまま、熱いものが広がった。  その感覚すら敏感になりすぎた体内は快感を拾い、達したばかりで震えている先端から、さらにとろとろと蜜がこぼれる。    頭のてっぺんから足の指先まで甘やかな痺れが渡って、快感の余波と多幸感に包まれた。ぐったりと脱力した体は、恍惚と虚ろに揺れる意識を手放そうとする。  けれど、熱く湿った唇で首元にキスが落ちてきて、泣き濡れて重くなった瞼をあげ、なんとか彼をとらえた。 「やっぱり泣かせちゃったね……」  息を大きく乱したままの結を心配そうに見つめて、直人が顔中に優しいキスの雨を降らせる。  返事がしたいのに、整わない呼吸のせいでうまく声が出ない。  代わりに、なんとか伸ばした手でそっと直人の頬にふれると、やんんわりと掴まれて手のひらにもキスが舞った。 「平気……?」   「……これは、予告した通りの嬉し泣きだから、大丈夫」  気遣ってくれる彼に、ようやく呼吸が落ち着いて出た声は少し掠れていた。  笑って誤魔化そうとしたが、途端にさっきまでの自分のあられもない声が脳内で再生されて、笑顔が凍ってしまう。 「ごめん。結の全部が可愛すぎるから……、無理をさせたよね」  小さく咳をする結に、申し訳なさそうに直人が眉を下げた。  もはや恋人の『可愛い』は、結にとって誉め言葉になりつつあるのだけれど、今ばかりは新しく刻まれた艶めかしい記憶と直結して、ぽぽぽっと音がしたかと思うくらい羞恥に熱が昇る。 「無理なんてさせられてないよ。それに……、本当に嬉しかったから。直人さんと、ひとつになれたんだって思ったら、幸せで涙が止まらなくなっちゃったんだ」  控えめに微笑んだ結に、満ち足りたような眼差しが向けられた。視線はそのままに、ちゅっと音をたてて手首の内側にも唇が押し当てられる。  感度があがっているせいでびくっと体を震わせると、恋人が今まで見たことがないほど甘やかで艶美な笑みを浮かべた。 「ありがとう。俺も、嬉しかった。俺を信じてくれたことも、初めてを委ねてくれたことも。だから、次回はもっと大切にするからね」   「……っと、うん。よろしくお願いします?」   「どうして敬語? いまさら照れてるの?」  くすくすと笑う直人につられて、結の顔にも花のような笑顔が開く。  こうして笑いあう時間すら幸せで、彼に心も体も愛されて満たされていく感覚にいっそう喜びが増して、気づけば溢れてくる思いのままに自ら恋人にキスを寄せていた。 「直人さん、愛してる。……さっき、言われたとき……返せなかったから」  触れるだけのキスを離して、たどたどしく愛を告げる。  言い慣れない言葉は結の心をくすぐって、気恥ずかしさに瞳を伏せていると、恋人からの返事は思いも寄らぬかたちで示された。 「あ……っん、直人さん、あの……」   「うん、ごめんね。でも、今の不意打ちはかなり効いたな」  埋め込まれたままの彼のものが、硬度と体積を増していくのを感じて、はっと息をつめる。  色っぽく眉をひそめた直人に、そうさせたのが結自身であることを直感して、落ち着きかけていた心臓が、一気に鼓動を速めた。   「あの、俺……」   「うん、分かってる。そんなつもりじゃなかったんだよね」   「そう……だけど、えっと……」   「心配しないで。結の負担になることはしないから」  中に感じるものはたぶん、さっきまでの感覚からいって中断するにはかなり厳しいサイズだ。  それなのに大したことないような顔で、結のことを優先しようとしてくれる恋人の配慮が嬉しくて、愛しくて、腰を引こうとする逞しい体に思いきりしがみついて引き留めた。 「やだっ、抜かないで。このままシてほしい……ッ」   「でも結……、したらきっと明日つらくなるよ……」   「平気だよ。直人さんにも、たくさん気持ちよくなってほしいから……ね?」   「そんなこと言って……」  ふう、と息をついた直人が廻していた結の腕を優しく引きはがす。   「もし立てなくなったら抱きかかえて帰ることになるけど、その覚悟はできてるってこと?」   「う……、それは……。困るけど覚悟する」   「どういうこと?」   「直人さんのせいでそうなるなら、本望かなって……こと」  照れ隠しのつもりでふにゃりと微笑んで見せると、真摯に向けられた眼差しの奥が燃え立った。ごくりと息を呑んだ結の喉元に、いたわるように熱い唇が触れる。 「責任はしっかり取るよ」  静かに低音が響いて、再び結は恋人との愛しさと喜びに満ちた時間に包まれていった。

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