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第8話 別人

 店を出ると滝沢はタクシーを止めて、有無を言わさず木原を先に乗せた。   「俺んとこに泊まるか。それともホテル?」 「滝沢さんのところへ……」 「分かった」    タクシーに行き先を告げると、滝沢はまた木原の手を握った。  木原は運転手の目を気にしているのか、ふいと窓の方へ顔をそむけたが手は握られたままにしている。  少なからず滝沢に好感を持っているというのが感じられて、滝沢は口元が緩むのを抑えられなかった。    木原はどう見ても遊んでいるタイプではない。  バーなどでひっかかる男とはランクが違う。  滝沢は社内恋愛は基本的にはしない主義だったが、木原は特別だ。  普段のクールな木原を知っているだけに、もっと知らない顔を見てみたいという好奇心には勝てなかった。    それに木原は一晩ぐらい寝たからといって、面倒なことになるような男だとは思えない。  相手の素性がわからなければ、適当にホテルに連れ込むが、木原はラブホテルのようなところは嫌うのではないかと滝沢は予測した。  家に男を連れ込むことはめったにないが、緊張している木原を自宅に連れて帰ることにしたのは、滝沢なりの誠意だった。  リビングで所在無さげに立っている木原をソファーに座らせると、滝沢は緊張している木原に取り敢えず飲み物を用意してやろうと思った。   「ビールでいいか?」 「まだ……飲むんですか?」 「なんだ、すぐにヤりたいのか?」    滝沢がニヤっと笑うと、木原は顔を赤らめて俯いてしまう。  滝沢はそんな木原の様子を見るのが楽しくて仕方がなかった。  ビールをついだグラスを渡して、乾杯をすると、滝沢は木原の隣りに座った。  明らかに木原がまた緊張するのが伝わってくる。   「お前とこんなことになるとはな……」    肩を抱き寄せると、木原は素直に滝沢の肩に頭をことんと預け、大人しくされるがままになっている。  なぜ木原はこんなにも従順なのか、と滝沢は不思議に思う。  普段の木原はこんなに従順な男ではない。  会議中でも納得のいかないことにはとことん刃向かってくるような気骨のある男だ。    木原がゲイであることを隠したがっているのは、春人と会った時の様子から想像できた。  大人しく言いなりになっているのは、そのことをバラされたくないという恐怖心ではないだろうか。  滝沢自身は自分の性的嗜好をそれほど隠していないのだが、隠したがるのが普通であることはよく分かっている。  木原は仮にも会社の同僚だし、無理強いするつもりは滝沢にはなかった。    嫌がられたら無理はやめようと思いながら、滝沢は遠慮がちにそっと木原の唇にキスをしてみる。  ぴくっと一瞬木原は身体を震わせたが、その後の反応に驚いたのは滝沢の方だった。    木原は驚くほど積極的に自分から強く唇を押し付けながら、滝沢の背中に手を回して抱きついてきた。  遊んでいる風には見えなかったが、なかなか情熱的なキスだ。  それなら遠慮することはない、と滝沢も木原とのキスに夢中になった。  キスだけでこれほど煽られることもめずらしい。抱けばどんな反応を見せてくれるのだろう、と期待はどんどん高まっていく。  ひとしきりキスの応酬がおさまると、木原は少し恥ずかしげに小さな声で滝沢の耳元に囁いた。   「シャワーを借りてもいいですか」 「ああ、そうだな。こっちだ」    木原がシャワーを浴びている間に、着替えを用意した。  未使用のバスローブがたまたまあったのが役に立った。    置いておいたバスローブを身に纏って現れた木原の姿を見て、滝沢は思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。  華奢で色白の木原のバスローブ姿はモデル並に美しかった。  眼鏡を外し濡れた髪を額に降ろした木原の素顔は、まるで少年のようだ。   「俺も浴びてくるから」    滝沢が急いで自分もシャワーを浴びに行こうとすると、木原が腕をつかんで引き止める。   「僕はどこで待っていたらいいんですか?」    伏し目がちに顔を赤らめて聞いてくる木原は、滝沢の知っている木原ではなかった。  いったい自分は今から誰とベッドインしようとしているのだろう、と滝沢が戸惑ってしまうほどだ。  滝沢は黙って木原の手を引いて寝室へ連れて行った。  余裕がないのを悟られないように、優しく木原をベッドへ寝かせると軽く唇にキスをする。   「ここで大人しく待っててくれ」    滝沢は慌ててシャワーを浴びた。  木原の気が変わっていなくなってしまうのではないかという気がして、焦っていた。  しかし滝沢が寝室に戻ると、木原は滝沢に言われた通り大人しく待っていたのである。  ベッドの上で木原は豹変した。これが最初で最後になるかもしれない。  思い切り滝沢に抱かれたいと奔放になっていた。    夢中だった。  二年越しの片思いの相手に抱かれるのはこの上ない幸せだ。  滝沢の唇が鎖骨に触れ、胸を伝うだけで甘いため息が漏れてしまう。  ぶっきらぼうに見える滝沢だったが、ベッドの中では意外に優しくてそれがますます木原を熱くさせた。    滝沢もまた木原の乱れていく様子に煽られていた。  バスローブを解いて現れた真っ白な肌の美しさに目を奪われる。余裕など欠片もなくなってしまっていた。  どうでもいい相手なら決してそんなことはしないのに、滝沢は迷うことなく木原の中心を口に含んだ。  舌を這わせていると、木原はどんどん高い喘ぎ声を上げ始める。    

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