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第19話 恋人
猛スピードで仕事を終えた木原は、念のため会社を出てから滝沢に電話を入れた。
滝沢は駅まで迎えに来てくれていて、肩を並べて夜道を歩く。
人通りのないところを歩く時に、滝沢は手を握ってきた。
恋人と手をつないで歩いたことなどほとんどない木原は、たったそれだけでもドキドキしてしまう。
「そうだ和泉、腹減ってないのか? コンビニに寄るならこの先にあるが」
「残業中に軽く食べたので大丈夫なんですが……少し買い物していいですか」
「ビールならあるぞ」
「そうじゃなくて……その……下着とか靴下とか」
言ってしまって、木原は恥ずかしさにふい、と顔を背けてしまう。
この時間からだと泊りになる、と予想した発言だからだ。
「そうだな。どうせならコンビニにあるだけ全部買って、うちに置いておくといい。毎回買いに行かなくて済むだろ?」
滝沢は楽しそうに声を上げて笑った。
毎回、と言った滝沢の言葉に、本当につき合うことになったのだという実感がわいてくる。
帰宅してリビングに到達すると、待ちきれなかったというように滝沢は木原を抱きしめ、いきなりソファーに押し倒した。
「ちょっと、滝沢さん……」
「和泉……やっとつかまえた。もう逃げるなよ」
嬉しそうな、それでいて不安そうな滝沢の熱い視線に、木原の方が戸惑ってしまう。
ずっと片思いをしていたのは自分だったのに、いざ想いが通じると滝沢の方がはるかに積極的なのがまだ信じられない。
「和泉、早く抱きたい……」
滝沢は頬を紅潮させて、囁きながら身体をまさぐり、何度もキスをしてくる。
一晩限りだと思って抱かれた前回、滝沢は紳士的でもっと余裕があった。
切羽詰った顔で求められると、木原は胸が熱くなってくる。
「スーツが皺になってしまうから……」
なんてムードのないことしか言えないんだろう、と木原は自分で情けなく思うが、酒を飲んでいる訳ではないのでまだ理性が勝っていた。
「脱がせてやるよ」
滝沢は木原を抱き起こすと、上着を脱いだ木原のネクタイを緩めて引きぬき、シャツのボタンに手をかけた。
「シャワー浴びたいんです」
「浴びればいい」
シャツを脱がせながら滝沢は噛みつくように、首筋に強く吸いついてくる。
「あっ……見えるところはダメですっ」
分かっているよ、と答えながらも際どい場所に滝沢は所有の印を刻みつけていく。
木原の衣服を全部脱がせてしまうと、滝沢自身も素早く全裸になる。
明るいリビングの灯りの下で、雄々しくそそり立った滝沢の下半身に目がいき、木原は真っ赤に頬を染めた。
「一緒に浴びよう」
風呂場に木原を連れ込みシャワーをひねると、滝沢は後ろから木原を抱きすくめた。
「洗えないじゃないですか……」
「俺が洗ってやるよ」
ボディーシャンプーを手に取ると、滝沢は木原の身体を撫で回し、その指先が二つの胸の突起を同時に捉えた。
「あ……ああっ……」
木原は壁に手をついて、身体を震わせている。
滝沢は突起をこねくり回し、背中に唇を這わせながら片手を下半身に伸ばした。
ボディーソープでぬるぬるとした手で木原の中心触れ、ゆっくりと扱いてやる。
「ダメですっ……滝沢さん……ああっ」
「じっとしてろ。俺はもう余裕がないんだ」
滝沢は片手で木原の前を扱きながら、後ろに指をずぶりと差し込んだ。
「うっ……ああっ」
「痛いか」
「だい……じょうぶ……」
滝沢が求めてくれるのなら、受け入れたい。
早く繋がりたいのは木原も同じで、その気持ちを滝沢に伝えたかった。
指を増やしながら滝沢は性急に木原を追いつめていく。
「ああっもう……早く……早く……」
「挿れていいか」
「挿れて……」
木原の言葉を聞き終わるか終わらないかのうちに、滝沢は一気に後ろから貫いた。
激しく突き上げながら、木原の身体を強く抱きしめる。
「あっあっ……も……イッてしまう……」
「俺もだ、とりあえず一回いこうぜ」
滝沢の言葉に、まだまだこの後も続ける気だというのを感じて、木原は我慢をやめて快感に身をゆだねた。
「イク……イクよ……圭吾っ……」
「和泉……一緒に……」
いっそう激しく突きあげられ、悲鳴のように滝沢の名前を呼びながら木原は果てた。
滝沢も我慢の限界だった欲望を弾けるように解き放ち、背を向けていた木原を自分の方に向かせた。
まだ身体を震わせ肩で息をしている木原を強く抱きしめると、唇を合わせて熱く舌を絡める。
「和泉……やっと呼んだな、俺の名前。ずっとお前がそう呼ぶのを待ってたんだぞ」
「だって……恋人でもないのにそんなの……」
「先に名前で呼んだのはお前だったじゃないか」
前に抱き合った時に、乱れた木原が名前を呼んだことを持ち出して、滝沢はクスクス笑った。
「あれは……つい……」
「つい呼んでしまうほど、俺のことが好きだったのか?」
滝沢がさらにからかうと、木原は照れ隠しにむすっとした顔をして、滝沢の胸に顔をうずめた。
「僕がどんなに好きだったか、知らないくせに……」
「分かってるよ。これからは恋人なんだから、ちゃんと呼べよ」
真上から降り注ぐシャワーに濡れながら、何度もキスを交わした。
もつれるように互いの身体を抱きしめてまさぐり、擦れ合っている二人の中心はまたすぐに力を取り戻していく。
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