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第40話

 高速道路を降り赤信号で車が止まったタイミングで、運転席から何かが差し出された。 「忘れてました。お二人とも、これどうぞ」  冬耶と御薙のスマホだった。  拘束された時に三雲に回収されたものを取り戻してくれたらしい。 「ありがとうございます」  冬耶は礼を言って受け取った。  正直なところ、スマホが無事に戻ってきてくれてとてもありがたい。  身分証明書を持たない『真冬』は、正規の方法ではスマホの契約ができないので、これは仕事に必要だからと国広が貸してくれたものだ。  月々の支払いは給料から天引きするから、自分のものとして好きに使えと言われているが、いずれは返却するものなので、こうして取り戻してもらえて本当に良かったと思う。  心の中でも感謝をしながら電源を入れていると、何やら隣から視線を感じる。  そろりと顔を上げると、眉根を寄せた難しい表情の御薙と視線がかち合った。 「あの……?」  何か問題があっただろうか。  にわかに不安になり問いかけると、御薙は言葉を選ぶように慎重に口を開いた。 「この後のことだが……」 「はい」 「……………。とりあえず、晴十郎さんの家まで送ればいいか?」  頷きかけて、三雲に声をかけられたときは買い物に行く途中だったことを思い出した。  しかし、いかにもな高級車や黒塗りのセダンではないとはいえ、この車でこのままスーパーにつけてもらうのは、色々な意味で気が進まない。  やはり家で落ち着いてから再び出掛けることにして、冬耶は改めて御薙の問いに首肯した。 「お手数かけますが、お願いしてもいいですか?」 「いや、俺のせいで大変な目に遭わせちまったんだから、お手数も何もないだろ。…じゃなくてだな」 「……はい?」 「今回のこと…、これで片付いたわけじゃねえから、若彦さんがまた何か仕掛けてくるかもしれない」  冬耶は確かに、と頷いた。  助かったことで終わったような気でいたが、御薙と仁々木若彦の確執に片が付いたわけではない。  御薙は「今後はできる限りお前を巻き込まないようにはするが」と付け加えてくれるが、若彦は同じ組内の、現組長の実子という、全力で排除するわけにもいかない難しい相手だ。  自分の立ち位置をきちんと把握したうえで、今度は軽率に見知らぬ相手についていくなという警告をしてくれているのだろう。 「気をつけます」 「お、おう。まあ、気を付けてもらうのも大事なんだが…、相手は何してくるかわからねえし、何かいつもと違うこととか、不審なことがあればこっちに連絡してくれ」  御薙の方からも若彦に不穏な動きがあれば連絡したいと言われて、連絡先を交換することになった。  以前はなるべく近づきすぎないようにしなくてはと思っていたため、できる限りプライベートでの接触を避けていたが、体質のことを知られてしまった今、もはや拒否する理由は何もない。 「あと、もちろん何もなくても連絡くれていいからな」  いざという時に連絡が取りやすくなって安心したのか、御薙の眉間の皺は消えている。  冬耶の方も、心強い気持ちがして、コクンと頷いた。 「営業でもいいぞ」  たたみかけられて、控えめに苦笑する。  今更御薙に営業なんて、一体どんなメッセージを送ればいいのだろう。  『真冬』としてなのか、素の自分の方がいいのか、ものすごく悩んでしまいそうだ。 「てか、まだ連絡先も知らなかったとか、びっくりなんですけど…」 「うるせえ」 「あっ、でも、私は普段あまり自分から営業しないので、御薙さん以外に知ってる人はいないかも…」 「「……………………」」  御薙が『真冬』の連絡先を知らなかったのは、自分が意図的に教えなかったせいだし、そもそも冬耶はあまり営業活動に熱心ではない。  御薙が何か責められているようだったのでフォローをしたつもりだったのだが、どうして二人とも黙ってしまったのだろうか。 「……だってよ」 「いや、……はい。すんませんっした」 「え?あの、」  何故、御薙が得意気になり、ハルが謝っているのかわからない。 「や~、天然にしても、キャラにしてもエグいっすね~」 「???」  自分は何かよほど変なことを言ってしまったのか。  エグいとは、褒められているのではないことだけはわかるが、一体何なのだろう……。

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