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第7話
日曜日、僕らはまたしても駅で待ち合わせをして、先生の大学を目指した。
校内は年季の入った古びぐあいで、日曜だというのにたくさんの学生が行きかっている。
「図書館とか使ってるやつ多いからなー。部活もしてるし」
先生はそう言って、一通り案内してくれた。ときおり友人らしき人と会話をしたり、先生の先生らしき人に挨拶したりしていた。そうしてみると、先生はしっかりと学生に見えた。僕とそう変わらない。たいして大人でもない、二十一歳。
先生との契約期間は、僕の受験が終わるまで。今のところそうなっていた。あと、ちょうど半年。まだ先のことなのに、想像すると苦しくなる。
先生に会えなくなる。考えただけで気が滅入る。告白するとき、もう会えなくなってもいいなんて、よく覚悟できたものだ。先生が軽く受け流してくれて、本当に良かった。じゃなきゃ、こんなふうにして一緒に歩くことなんてできなかった。
「三上クン」
甲高い声がして、前方から女の人が近寄ってきた。緩くパーマをかけた長い髪の人だ。ぴっちりとしたTシャツにジーンズ。親しげな顔で先生に近寄ってくる。
「この子ダレ?」
「俺の生徒」
「ああ、カテキョーの?」
「そ」
「今日の夜空いてない? 人数そろわないの」
「今日はダメ。予定あるから」
「えー、残念。今度絶対来てよ」
「ヒマだったらね」
「そんなこと言って、ヒマだったことないじゃない。じゃあねー」
用件だけすませると、女の人は手を振って離れていった。思わず訊く。
「……彼女?」
「違う」
先生は即答した。でも、すぐ後に続けた。
「あれは」
なにげない一言だ。でも、きっとわざとに違いなかった。
あれは、彼女じゃない。ってことは、他に彼女がいるってこと。だから、僕なんて相手にできない、ってことだ。
わかっていたけれど、実際に聞かされると落ちこんだ。
彼女がいるなら、最初からそう言ってくれればいいのに。
それでもこうやって頼みごとを聞いてくれるのは、僕相手だと浮気にならないからだろう。当然だ。誰が家庭教師の生徒の男子中学生を疑うだろう。
カフェテリアでコーヒーを飲みながら、先生は言った。
「そういや、俺、時給上がったんだ。おまえのおかげだよ。ありがとな」
「……おれの成績が上がったから?」
「そ。おばさん、会社に直接礼言ってくれたらしいな。いやマジ、嬉しいぜ。この調子でがんばってくれよ」
悪気のないその顔が、僕は無性に憎たらしくなった。
僕がこんなに苦しんでるっていうのに、先生はいたってのんきだ。誰のためにがんばってると思ってんだ。
僕はひどく気がぬけた。なんだかすごく、疲れてしまったのだった。
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